
午前6時、スマートフォンのアラームが朝を知らせる。アラームを止めたついでにロックを解除しようと画面をのぞき込むものの、寝ぼけ眼のわたしはわたしと認められないのか、顔認証に失敗。代わりにパスコードの入力を求められた。朝いちばんから「あなたはほんとうに、あなたですか」と問われるのが、現代のわたしたちの日々だ。
パスコードやパスワードは、その名の通り、何かをpassするためのもの。パスワードは古くから、軍隊で敵と味方を見分けるために交わされた合言葉だったという。町のはずれの夜の門。暗闇の中では、向こうから来る者の顔がよく見えない。門番が「合言葉は?」と問う。決められた言葉を知っていれば中へ通してもらえ、答えられなければ門は開かない。まさに、通るための言葉である。
英語の「challenge」には、相手を呼び止め、身元を確かめるという意味もある。それに応えるのが「response」。現代のパスワード認証の世界でも、「チャレンジ・アンド・レスポンス」と呼ばれる仕組みがあるらしい。
チャレンジと聞くと、新しい仕事をはじめるとか、高い山に登るとか、何か難しいことに挑む姿を思い浮かべる。けれど、かつて門番が「お前はほんとうに味方か」と尋ねたように、パスワード認証で「あなたはほんとうにあなたですか」と確認するように、チャレンジという言葉の根には、相手に問いを投げかけるという意味がある。そういえば、身の回りのものも、ときどきこちらに小さな問いを投げかけている気がする。「あなたなら、これをどう使う?」
先日、2学期のはじまりを目前に控えて、中学生の娘が新しいペンケースがほしいと言った。一緒に三宮に出かけたついでに、あちらこちらのお店を見てまわる。そのなかで、JIBに立ち寄った。JIBのバッグや小物の生地は、おもにヨットのセイルクロス。本来、潮風や水しぶきの中で使われる丈夫な素材が、いま、「ペンケース」という名前で目の前に並んでいる。海のものだから海辺で使いましょう、という決まりはない。ならば、ペンケースも、ペンを入れる本来の役割から自由になってもよさそうだ。
SサイズとMサイズのペンケースを交互に手に取り、自分の文房具が収まるか考えている娘。その隣でわたしもペンケースを手に取ると、ファスナーを開けた細長い空間が、こちらに問いかけてきた。「あなたなら、ここに何を入れる?」
仕事用のボールペンや付箋を入れる、オーソドックスな使い方もいい。お出かけのときなら、かばんの中で散らかりがちなリップクリームや小さな鏡、イヤホン、常備薬とかを入れたい。カラビナでかばんに引っかけると、サングラスを取り出しやすいかも。美術館で展覧会を観たあとの半券を帰宅するまで折らずにしまっておく場所としても、ちょうどよさそうである。考えを巡らせていると、店員さんが「歯ブラシセット入れにしている方も多いですよ」と教えてくれた。なるほど。
子どものペンケースには、鉛筆、消しゴム、定規と、入れるものがほとんど決まっている。一方で、大人のペンケースは、自由だ。わたしがこのペンケースに入れて、ほんとうに持ち歩きたいものは何だろう。答えはすぐに出さなくても、かまわない。ペンケースから差し出されたチャレンジ(問いかけ)を楽しむのも、有意義なレスポンスタイムの過ごし方だろう。
本記事に掲載の商品は、阪急百貨店・阪神百貨店のリモートショッピングサービス「Remo Order(リモオーダー)」にて、ご自宅や外出先からスマートフォンでご注文いただけます。
Remo Order(リモオーダー)についての詳細はこちら
※掲載商品は、予告なく売り切れや仕様変更、販売終了となる場合がございます。あらかじめご了承くださいますようお願いいたします。