
伝統と革新を織りなす「suzusan」
有松鳴海絞りを世界へ。
村瀬 弘行
suzusan
今や世界29カ国、80都市の約120店舗に販路を持つ、有松鳴海絞りのライフスタイルブランド「suzusan」。ハイエンド市場から注目され、ラグジュアリーブランドとの共創にも取り組む。伝統工芸に現代の価値観を取り入れた「suzusan」の魅力とは。
スペシャルムービー公開中

伝統工芸がアートとして
認められた瞬間。
愛知県名古屋市の有松・鳴海地域を中心に、江戸時代から続く伝統工芸、有松鳴海絞り。針で縫う、糸で括る、板で挟むなど様々な技法があり、その多様性は世界に類を見ないという。そこから生み出される絞り模様の美しさが話題を呼び、尾張藩によって専売品として保護され栄えてきた歴史がある。しかし後継者不足により、守り継がれてきた伝統技術は、消滅の渦中にあった。
有松鳴海絞りの図案や型彫り、絵刷り加工全般を代々営んできた家に生まれたが、家業を継ぐ気はなかった村瀬弘行。アーティストを志して渡英、その後ドイツに拠点を移し、デュッセルドルフのクンストアカデミー(国立美術大学)で立体芸術と建築を専攻していた。
そんな中、転機が訪れる。ドイツ留学中、父親が手がけた絞りの作品をイギリスにある気鋭の現代美術ギャラリー「ヴィクトリア・ミロ」に見せる機会があった。オーナーが作品を高く評価し、多くの商品を買ってくれたのだ。この衝撃は今でも忘れられないと言う。
「現代アート界で重要なポジションにあるギャラリーが、日本の絞りを見て美しいと評価した。現代美術と日本の伝統工芸が、同じ価値観に並んだことにとても驚きました」。有松鳴海絞りが単なる伝統工芸ではなく、アートやファッションとして世界に通用する可能性を感じたのだ。

時間のかかる絞り、一瞬の染め。
絞り染めの奥深さ。
絞り染めは、絞りの手仕事に重きを置いた染織技術で、一つひとつに個体差が生まれる。絞りの工程は何週間、何カ月とかかるが、染めるのは一瞬。紐を解いてみて初めて、全体像が見える。その瞬間は「毎回、驚きと発見がある」と言う。完全に同じものは作れない予測不能の面白さが、絞りの魅力であり、技の見せ所でもある。

日本の伝統工芸を、
世界に橋渡しする。
「suzusan」が日本の伝統工芸でありながら、あえてドイツ、そして海外から活動を始めた背景には、明確な戦略があった。「伝統工芸を未来に繋げるには、価値をいかに育て、文化として残していくかがテーマだった」と言う。日本の地方から発信するのではなく、最初からヨーロッパのハイエンド市場をターゲットとすることで、日本の伝統工芸の価値をより説得力を持って世界に発信できると考えたのである。
とはいえ、その道のりは最初から平坦なものではなく、ヨーロッパ各地をまわってプレゼンテーションを重ねた。何度も断られ、ブラッシュアップを繰り返す。そういった苦労が実を結び、有松鳴海絞りの価値が認知され、世界各国での販売店が約120にまで成長した。「suzusan」を取り扱う店は、日本の文化や絞りの価値を深く理解し、現地のライフスタイルにフィットする形で販売してくれている。率直なフィードバックもあり、それらが「suzusan」の製品をさらに洗練させるための貴重な糧となり、ブランドを共に育てるような関係性を築いている。
村瀬は「suzusan」のブランド活動を、ものづくりを通して、地域と地域、過去から現在、そして未来へとつなぐ“橋渡し”と表現する。実際、「suzusan」の商品をきっかけに、世界中の人々が有松の地を訪れ、作り手と使い手の間で新たな交流も生まれている。

今回のフェア
「Japan and me. 」への想いを聞いた。
1900年、当時は国威をかけて挑む要素があったパリ万博で、有松絞りの着物が銅賞を受賞しジャポニズムと賞賛された。そこから100年以上が経った今、「suzusan」を大阪の地で展開することはとても感慨深いものがある。
ヨーロッパは産業革命により、正確に大量生産することを目指した結果、たくさんの“手の文化”が失われた。しかし、日本には経済産業省が指定している伝統工芸品が243あり、「suzusan」の有松鳴海絞りに限らず、箸や茶碗、お菓子といった日常のなかにある品も、手で作られたものが多くある。それが今、世界中から注目されているということを知るきっかけになればと思う。
今回のフェアでは、イギリスを拠点とするデザインスタジオ「Toogood」とコラボレーションし、既存の服を「suzusan」の絞り技術で染め直し新たな価値を生み出した商品も世界で初めて紹介する。ほかにも、大阪で100年以上の歴史を持つ毛織メーカー「深喜毛織」の残糸で作ったソックスも販売。単なる染め直しではなく、ストーリーと背景を持つ、世界に一つしかない魅力的なものなので、ぜひ手に取って見ていただきたい。

日本のものづくり KOHGEI
- 染める -
COME TOGETHER
● 10月8日(水)〜 14日(火)
● 1階 コトコトステージ12


suzusan CEO兼クリエイティブディレクター。有松鳴海絞りを営む職人の家系に5代目として生まれる。
アーティストを目指して20歳でヨーロッパへ渡り、ドイツ・デュッセルドルフの国立アカデミーで立体芸術と建築を専攻。在学中の2008年、数本のストールでオリジナルブランド「suzusan」をスタートさせ、現在では世界29カ国、120店舗で取り扱われている。
また自社ブランドにとどまらず、日本の伝統工芸の継続性と循環を生み出す社会活動も精力的に展開。