

異国の地で見つめた“何を描くべきか”
創作の原点は、20代前半のヨーロッパでの体験にある。高校卒業後、単身イタリアへ渡り、美術館や教会を巡った日々。その後、ベネチア・ビエンナーレでのアシスタント経験やスイス留学を通じて、西洋のアートシーンに触れた。そこで彼が突きつけられたのは“自分は何を描くべきか”という問いだった。「僕は洗礼も受けていないし、日曜にミサへ行く習慣もない。本当の意味で西洋絵画を理解することはできないのではないかと思ったんです。一方で、日本には庇が長く薄暗い家屋の中で見る墨の色の深さや、ゆらめく和蝋燭の灯りを反射する金箔などの美しさがあります。」

日本絵画の歴史を学び、いまを紡ぐ
品川が拠点を置くのは、千年以上も前から絵師たちが筆を繋いできた京都だ。街中に寺社仏閣があり、多くの絵が当時のままの姿で、あるべき場所に残っている。
「伝統的な技法や様式を用いて、現代における新しい絵画の可能性を広げるような作品制作をしたいと考えるようになりました。僕が 200年前の伊藤若冲に感動するように、200年後の絵師に『品川もすごい』と思われたい。だから、後世の人たちが僕の作品を残したいと思うような作品を作りたい。」
その決意は、画材への徹底したこだわりにも現れる。経年による劣化を最小限に抑えるため、パルプ混じりの本紙は使わず、糊は市販の保存料を避けて自らスタジオで炊く。金箔は金沢、和紙は越前や大洲など。製造現場に足を運び、ものづくりの背景まで納得できる相手から画材を揃える。彼の筆は、200 年先の未来を既に見据えている。


削ぎ落とす、という日本独自の美学
品川の描く植物を単純化したシリーズの作品には、凛とした美しさがある。その背景にあるのは、日本ならではの方法だ。漢字を簡略化してひらがなを生み出したように、エモーショナルな感情を“エモい”という言葉で表すように、日本人は要素を潔く削ぎ落とすことで独自の文化を作ってきた。
「着物の文様や寺の破風を描き写すなかで、ひとつのシリーズに辿り着きました。」花を見ながらスケッチすることも多いという。アトリエにも、白い花が一輪飾られていた。花が持つ印象や空気感、その匂いまでも残したまま、自身のフィルターを通してもっとも純度の高いかたちへと昇華させていく。


絵との約束に捧げる覚悟
ストイックに絵画と向き合う品川だが、その素顔は驚くほどかろやか。「仕事は絵を描くこと、趣味はお酒を飲みながら絵を描くこと」だと笑う。その姿は、生活と創作が分かちがたく結びついた、現代の絵師そのものだ。
「死ぬまで描き続けたい。絵とは約束をしているつもりでいます。老衰で筆を持って死ぬのが夢なので、健康管理もきちんとしている(笑)。1 枚でも多く描きたいなと思うし、描きたい絵があるのでこれからも頑張ります。」描くことへの純粋な喜びと柔軟な感性が、みずみずしい作品を生み出す土壌となっている。

対話し、即興で紡ぐ “春” の気配
「Japan and me.」のキービジュアルとして描かれた『春』には、品川の軽快な筆はこびと、その独特なリズムが刻まれている。「描くというよりも、絵と話すような感覚なんです。ここにこれぐらいの強さの色があるから、こっちにはこの色を置こう、と。都度、絵と相談しながら描いていきます。」
太い線、消えかけの線、愛らしい線。多彩なストロークが重なり合うさまは、桜吹雪や揺れ動く日差しのよう。『世の中にたえて桜のなかりせば…』という和歌があるように、日本人は古来、桜の散りゆく姿に心を寄せてきた。一方で、桜は心躍る春の訪れを知らせる “芽吹き”の象徴でもある。移ろいゆく儚さと、生命が息づく気配や喜び。その相反した感情が、ひかりに満ちた情景のなかで鮮やかに溶け合っている。

「この絵を見る方には、贅沢をいうなら、お花見に行ったような気持ちになってもらえたら素敵だなと思います。作品を見る前と後で、心持ちに変化が生まれるとしたら、嬉しいですね。」

こけら落としだからこそ
4月8日(水)からは、阪急うめだ本店 8 階 コンテンポラリーアートギャラリーにて個展「SPRING’S
FLUTTERING」が行われる。その目玉となるのは、大島桜を描いた大作だ。金箔の背景に、白い花と緑の葉のコントラストが鮮烈な印象を放つ。品川は、モチーフのある部分とない部分を対等に描いているという。そこには、日本絵画独自の余白へのとらえ方が息づいている。観る者の想像力は描かれていない部分へと広がり、深い奥行きが生み出される。春のひかりのなかで、目がくらむほどの眩しさ。そんな春への印象が、“金・緑・白・黒” という室町時代から続く伝統的な色づかいによって表現されている。
新設のコンテンポラリーアートギャラリーは約10mの奥行きを持つ、没入感を重視した先鋭的なギャラリー。空間を構築し、阪急独自のアート提案を行う。そのこけら落としを、品川の作品が飾る。かつて学生時代にアルバイトをしたこともあり、縁の深い阪急うめだ本店での個展に向けて、意気込みも十分だ。
「僕のこれまでのシリーズを、しっかりと多くの人に見てもらえるような展覧会にしたいと思っています。」


品川亮|桜図
品川亮 個展
「SPRING’S FLUTTERING」
● 4月8日(水)~27日(月)
● 8階 コンテンポラリーアートギャラリー
※催し最終日は午後5時終了

品川 亮
画家
1987年大阪府出身、京都を拠点に活動。伝統的な画材や様式を引用しながら、自身にとって本質的な絵画とは何かを問い、いまの時代にしか描けない絵画を模索する。4月8日(水)からは、阪急うめだ本店 8階 コンテンポラリーアートギャラリーで個展「SPRING’S FLUTTERING」を開催。













