
遠出した帰り、外はもう夜。大阪から阪神高速神戸線に乗って西に進むと、途中から、まちのすぐ向こうに黒いかたまりが現れる。山だ。ああ、帰ってきたな、と思う。ここからは、場所を示すのが“北側・南側”ではなく“山側・海側”の世界。黒くどっしり沈む山肌と、その上に広がる、青みを帯びてほんのり明るい夜空。山と空の境目に、尾根の重なりが1本の線のように続く。まるで、レオ・レオニの絵本『スイミー』みたいだ。絵本のなかで、小さな魚たちは「みんな一緒に泳ぐんだ。海で一番大きな魚のふりをして!」と一致団結して大きな魚を追い払う。
六甲山地は、西は須磨から東は宝塚まで東西約30kmにわたる連山である。夜の暗がりのなかでは真っ黒い一枚岩のように見える山肌も、山と空を区切る1本の線のように見える尾根も、いくつもの山が連なって織りなしている。同じ景色を昼間に臨むと、大小さまざまな山がもこもこと折り重なっている様子が見て取れる。
神戸暮らしのわたしにとって一番身近な山は、この、『スイミー』な六甲山地だ。でも、「山を描いてください」と言われたら、つい、違う山が思い浮かぶ。子どもとの絵しりとりで山を描くときも、家の裏手に広がる折り重なった山々ではなく、なだらかな曲線でそびえ立つあの山の輪郭を選んでしまう。“山らしい山”といえば、やはり富士山なのだなぁ。
先日、父の日の贈り物を探しに行った先で、富士山が底に彫られた江戸切子のロックグラスを見つけた。手に取って目線の高さに持ち上げると、グラスの中にあの姿が浮かんでいる。グラスを回して、富士山をぐるり一周眺める。どの向きからも、まごうことなき富士山のかたちをしている。すっと立ち上がる、あの輪郭。
その日は、神戸っ子の父と富士山が結びつかずに棚に戻してしまったけれど、むしろ味わい深くなるんじゃないかしらと、今、車窓から夜の山を眺めて思い直す。同じ六甲の山々でさえ、昼間の表情とのギャップに、群れを成した小魚たちが“海で一番大きな魚”のふりをする『スイミー』を連想するくらいだ。連想は、目の前の景色にもうひとつの層を重ねてくれる。ウィスキーの色がロックグラスの富士山に映り込むとき、父はふと、リビングから見える夕陽に映える六甲の山を思い出すかもしれない。はたまた、趣味のハイキングをしているとき、眼前の六甲の山の表情に、ロックグラスで眺めている富士山の尾根が頭をよぎることもありえる。
空想のなかで、暮らしのすぐそばにある山々と富士山の尾根がつながる。よし、今年の父の日は、富士山ロックグラスを贈ろう。
本記事に掲載の商品は、阪急百貨店・阪神百貨店のリモートショッピングサービス「Remo Order(リモオーダー)」にて、ご自宅や外出先からスマートフォンでご注文いただけます。
Remo Order(リモオーダー)についての詳細はこちら
※掲載商品は、予告なく売り切れや仕様変更、販売終了となる場合がございます。あらかじめご了承くださいますようお願いいたします。