阪急うめだ本店

Japan and me. 日本のお正月

嵯峨御流 辻󠄀井ミカ スペシャルインタビュー

Japan and me.

辻井 ミカいけばな嵯峨御流 華務長

昭和50年から阪急うめだ本店の正月のウィンドー装飾を手がけてきた、嵯峨御流。全7面をどう魅せるかはもちろん、生きた花や植物で構成するため、いかに美しくその命を長らえさせるかにも苦心すると言う。2026年ウィンドー制作への思いを、現在の華務長、辻井ミカに聞いた。

嵯峨御流の歴史と、家元なき華道
嵯峨御流の歴史と、家元なき華道

嵯峨御流の歴史と、家元なき華道

嵯峨御流の起源は、1200年以上前の平安時代に遡る。嵯峨天皇が、京都・嵐山に建立した大覚寺(旧嵯峨御所)の大沢の池で菊を愛でられた際、その美しい姿を評して「花を生ける者はこの姿を以て範とすべし」と仰せになったことが源流とされる。

嵯峨御流には家元が存在しない。その源が個人ではなく、天皇や皇族が門跡を務めた大覚寺に伝わる華の道であるためである。華道家は、“華務職”と呼ばれる職務として、型を継承し、文化の永続性を重んじてきた。この型とは、時代や表現形式が変わっても変わらない、日本独自の繊細な感性と、文化の根底にある哲学。辻井は、「花を生けることは、祈りにも近いように思います。」と言う。精神を研ぎ澄ませて雑念を払い、無心で花と向き合うのだ。

六大に根差す宇宙観と命の共振

六大に根差す宇宙観と命の共振

嵯峨御流において脈々と受け継がれてきた、密教の哲学体系である「六大」の思想。すなわち、森羅万象を構成する地・水・火・風・空の五大に、人間の心の動き(識)を加えた六要素の調和である。嵯峨御流の型は、この天地の理や陰陽五行の巡りといった宇宙の根源的な教えに基づいている。また、生け花を通じて、万物が相互に依存し、常に変化しながら命を循環させている“命のありよう”を表す。それは、“自分は周りと繋がっている”ことであり、周りのために施す“利他の精神”でもある。花が、実や葉を惜しみなく他者に与えるように、周りを生かすことで、自分にも喜びが返ってくるという調和の精神を具現化する。

2026年ウィンドーの見どころ
2026年ウィンドーの見どころ

2026年ウィンドーの見どころ

ウィンドーでも、この六大(地・水・火・風・空・識)を背景に、正月らしい吉祥図像を現代的に再解釈し、創造的な仕掛けを施すことで、観る者に探求の楽しみを提供する。

“地”は蓬莱。大地から湧き上がる水蒸気をイメージし、未来への期待感を込める。“水”は昇り龍と梅、“火”は見るだけで3つの福徳が来るとされる朱竹を用いて勢いある馬を描く。“風”は鷹のはばたき。“空”は嵯峨御流の花態の1つである、荘厳華。常に変化していく森羅万象と、変わらぬ人の心を表現しているもの。心は常に一緒、中身は常に入れ替わっている。そのような思想を花や枝で具体的に表したもの。

水仙の球根を用いて、少しずつ成長する様子を楽しんでもらえる遊び心や、三が日、毎日生け替えて変化を持たせる部分もあると言う。「近くで見て命ある花の美しさやたくましさを、少し離れて見ると良く分かる華道の“見立て”の楽しさを込めています。もちろん、お正月らしい、めでたさ、晴れやかさも。少しでも見る方の琴線に触れられたらというのも、私なりのこだわりです。」1200年以上の長きにわたり受け継がれてきた型に、辻井ミカの現代的なアイデアやセンスがプラスされた、美しく楽しい、驚きのある内容に仕上がっている。

壮大かつ繊細、生きとし生けるものたちの正月。
壮大かつ繊細、生きとし生けるものたちの正月。

壮大かつ繊細、
生きとし生けるものたちの正月。

今回の撮影は、ふだんは参拝客が立ち入ることのできない正寝殿 鷹の間で行われた。このふすまにあるのが、松鷹図。原画は狩野山楽によるもの。「喜び事の前触れとされる雉、それをとらえて羽ばたく鷹の姿が描かれた、とても縁起の良い図柄なんです。ウィンドーの要素に一富士二鷹三茄子を入れようと構想していた時、ふとこの鷹が目に入って。これもご縁だなと感じました。」午年にちなんで、白地に天馬の着物。若松の枝を1本ずつ見極めながら、生けていく。仕上げに、金銀の水引を締める。完成した姿は、新たな命が吹き込まれたように凛とたたずみ、息をのむほど美しい。本作品も、5号ウィンドーに展示される。

壮大かつ繊細、生きとし生けるものたちの正月。

ウィンドーに飾られるのは、もちろん生花。展示期間中は、毎日100名ものスタッフで手入れをすると言う。「不思議なもので、花や木たちも、ウィンドーに入ってスポットライトを受けると、生き生きするんです。頑張りや!と声をかけながら。人みたいでしょ。」見た人が、シンプルに美しいと思うことはもちろん、自然の偉大さを感じ取ったり、次代に繋いでいきたいなと思ってもらうことも、華道の責務だと思う、と。
辻井ミカのあふれる思いが随所に詰まった、全7面のおめでたい尽くしの花々の物語。ぜひ足を運んで、感じ取っていただきたい。

壮大かつ繊細、生きとし生けるものたちの正月。

special decoration

※ 写真はイメージです

新春いけばな2026

● 12月27日(土)〜 1月12日(月・祝)
● 1階 コンコースウィンドー

artist profile

辻井 ミカ いけばな嵯峨御流 華務長 / 華道家

「嵯峨御流」華道総司所華務長。祖父・父の跡を継ぎ1968年「嵯峨御流」に入門。その後1996年に教授となり、本格的に華道家として活動を開始。2014年、流派の家元にあたる華道総司所華務長に就任。現在、日本いけばな芸術協会常任理事、大正大学客員教授を務める。

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