白、黒、グレー。ここ数年、私のクローゼットはこの三色でほとんど埋まっている。間違いがない安心感、体型をすっきり見せてくれる頼もしさ、そして「がんばりすぎないおしゃれ」を演出してくれる心地よさ。ウィークデイの朝は服選びで迷わなくて済むし、「あえてのモノトーン」感が休日のお出かけをかっこよく仕上げてくれる。
しかし、ともすれば、頭からつま先までモノトーンづくめの自分。電車の窓やショーウィンドウに映る姿を見て、「なんだか『通行人A』みたいだな」と思うこともある。学芸会の劇で割り振られる、名もなき人の役。モノトーンは素敵だし便利だけれど、それ一辺倒でいるのは、代替可能な名もなき人になったかのような味気なさが鼻先をかすめる。モノトーン一辺倒、ちょっとつまらなくなってきたかも。
そんな折、「ちょっとそこまで」用に軽いトートバッグがほしくなった。近所の散策や、そのついでのモーニングやランチ。身軽に動きたいので、最低限の荷物を入れられるコンパクトなものがいい。そして、まだまだ暑い時期が続きそうだから、川べりや木陰で休憩するときにためらわずに地面やベンチに置ける丈夫な素材──を思い描いてウォーキング中に道ゆく人を眺めていたら、ある朝、JIBのバッグを手に犬の散歩をしている女性が目に留まった。JIBってたしか、ヨットのセイルクロスを使ったバッグだっけ。軽い、丈夫、コンパクト。わたしが求めている三拍子がそろっている。そして何より目を引いたのは、女性のバッグの赤色だった。なんて鮮やか! 脱・モノトーンにぴったりじゃないですか。
家に帰り、さっそくオンラインショップを覗いた。しかし、そこに載っているバッグを見れば見るほど、色に気圧されてしまった。赤、青、ピンク、緑──どれもビタミンカラーの発色が眩しく、モノトーン一辺倒になって久しいわたしには持ちこなせないかもしれない。犬の散歩の女性を思い出す。彼女も服装はきわめてシンプルだった。でも、あのバッグの赤色はまったく突飛ではなかった。ならばわたしも……と奮い立たせつつも、「やっぱりグレーか白かな」と無難な色をカートに入れそうになる。
けっきょく、お店に向かった。こういうときは、実際に手に取ってみるのが一番だ。まずはカートに入れる寸前だったグレーのトートバッグを鏡の前で合わせてみる。うん、違和感はない。むしろ安定感。でも想像どおりすぎて、心が動かない。首を傾けていると、「普段どんなお洋服がお好きですか?」と店員さんが声をかけてくれた。「ほとんど黒と白なんです」と答えると、彼女は笑顔で「じゃあ、意外かもしれませんが、こういう色はいかがですか」とひとつのバッグを差し出してくれた。
レモンのように鮮やかな黄色。思わず「わぁ」と声が出る。普段なら絶対に手を伸ばさないだろう。けれど、すすめられるがままに手に取ると……意外にも、悪くない。無地の黒いTシャツにデニム、白いスニーカー。いつものモノトーンの服に黄色のバッグが加わっただけで、ぐっと全体が明るくなった。
モノトーンの世界に射した、一滴のビタミンカラー。ビタミンとはよく言ったものだ。ビビッドな色が引き立って、鏡のなかのわたしが生き生きして見える。見えるだけじゃない。からだの奥からじんわり元気が湧いてくるのを実感する。
「これにします!」わたしは即答した。次の週末、この黄色のバッグを連れて散歩に出かけるのが、今から楽しみでしかたない。
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