今年も暑い、長い、夏がやって来た。朝、靴を履いて玄関のドアを開けた瞬間に前面から押し寄せてくる蒸し暑さ。クーラーのスイッチを切ったばかりの家の中はまだ涼しく、後ろ髪を引かれながらエイッと蒸し暑さの方へ一歩二歩と足を進める。日傘をさして駅に向かうものの、陽射しを遮るくらいでは「涼しい~」なんて感じられない。それでも信号待ちで立ち止まったとき、どこからか風を感じたとき、ふと、ひんやりとした爽快感が肌をすべることがある。玄関を開ける寸前に吹きつけたボディスプレーに意識が向くからだ。ふわりとたちのぼるミントの香りに、心までシャキッとする。
こんなふうに、外出前のボディースプレーよろしく「意図的に仕込んで、いったん忘れて待つ」という時間の過ごしかたは、日々の暮らしのなかで案外心に効く。時間差のごほうび、とでも言おうかしら。
たとえば、いつかは分からないけど近い未来の自分を思いやって「ついでに多めに作っておこう」とぐつぐつ煮込み、冷凍庫の片隅に眠らせた自家製カレー。仕事でくたびれて「もうごはんを作る気力がない……」というタイミングでその存在を思い出し、「よくやった、あの日のわたし!」とガッツポーズをする。帰り道で家にいる家族に「ごはんだけ炊いておいて」とお願いしておけば、帰宅するやレンジで温めるだけで晩ごはんが仕上がる幸福感。疲れたからだに沁み入る「あの日のわたしの思いやり」は、どんな外食よりもごちそうに思える。(外食をすると帰宅時間も遅くなるし)
それから、先週末うれしかったのは、パントリーにしまいこんでいたアイスティー用の茶葉セット。こどもが「夏にぴったりだよ」と母の日に贈ってくれたことを早朝ウォーキングの最中に思い出し、シャワー上がりに淹れてみたら、香りと涼しさが五感を潤してくれた。アイスティーをひとくち飲むたびに心の奥のざわつきが消えて、まだ家族が起き上がってこない静かなリビングに、わたしだけの穏やかな時間が流れた。
暮らしにときどき、時間差のごほうびを。刺激的なサプライズや計画的な楽しみももちろんステキだけれど、偶然のふりをした小さな喜びは、心をじんわりほぐしてくれる癒し成分だ。あたためておいた手間や記憶が、なにかの拍子にそっと顔を出して、今日を少しだけ豊かにしてくれる。
晩ごはんの冷凍ストックに、時季まで寝かせるおたのしみ。そして、うだるような暑さの夏の外出前には、爽快感や香りを仕込むことも忘れずに。まるで自分でも忘れていたかのようなタイミングで、スーッとフワッと火照りをしずめてくれるだろう。
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