「新郎新婦のお二人はぜひ、『3つの袋』を大切にしてください」ではじまる、結婚式の定番スピーチ。耳にしたことがある人も多いだろう。堪忍袋、給料袋、そしてお袋。「パートナーにすぐに怒らない」「お金の管理をしっかりする」「双方の母親(実家)と良好な関係を保つ」——それぞれ意味するのはこんなところだったかしら。育ってきた環境がちがう二人が一つ屋根の下で末永く暮らしていくにあたっての、三種の神器的な知恵である。
言い古されて耳にタコができそうな「3つの袋」ではあるけれども、すこし汎用的に堪忍袋を「感情まかせにしない」、給料袋を「適度なルール」、お袋を「相手の事情や価値観」に言い換えてみたら、夫婦円満に限らず、仕事や近所付き合い、友人関係などあらゆる社会生活に通じることに気づく。そこにいるみんながそれなりにご機嫌に過ごすための、知恵袋。
「3つの袋」の知恵を大切に抱えて暮らしていきたい。そう願いつつ、実際のところは「袋」と現実のはざまであらがう日々だ。女性のわたしは、女性ホルモンの変動が影響していると言われるPMS(月経前症候群)で、月に数日はイライラ感や気分の落ち込みに見舞われがち。そんな日にかぎって、仕事に向かう電車で空いている席が近くにあったのにスッと割り込んできたひとに横取りされる。ええ! 横入りじゃないですか!? でも、それを口にする勇気はない。イライラに拍車がかかる。夕方は夕方で、家族と「晩ごはん、何がいい?」「なんでもいいよ」から始まる「じゃあ、魚の煮付けにしようかな」「えー、肉をがっつり食べたい気分なんだけど」「なんでもいいって言ったじゃん!」のよくある諍いが発生。ふだんなら軽く受け流せることでも、PMSのせいかドッと疲弊する。
「あらがう」というと「抗う」への漢字変換が一番メジャーだけれども、勝ち負けをつける「争う」もけんか腰でものを言い合う「諍う」も、じつは「あらがう」という読み仮名をもっている。同じ読み方をする「抗う」「争う」「諍う」は、意味はすこしずつ違うけれど似たような感情の揺らぎを呼び起こす——と考えると、なんだか「3つの袋」の堪忍袋(感情)、給料袋(ルール)、お袋(価値観)と呼応するような気がしてくる。
ルールを守らない赤の他人の行動や、当たり前にわたしと異なる価値観をもつ家族の食欲をコントロールすることはできない。それらに比べると、PMSを引き起こすと言われている女性ホルモンは、まだお付き合いをしやすい相手だ。もちろん、ままならない存在ではある。でも、争うことも諍うこともない(できない)相手だからこそ、「あらがう」を手放しやすい。「あらがわない」とは、屈したり諦めたりすることではなく、受け入れる調和の姿勢だ。
月ごとに訪れる体の変化や、年齢とともに移りゆく体調の波。変化に身をまかせ、波のまにまにただよう。穏やかなときもあれば、戸惑うほど不安定なときもあるだろう。リズムに翻弄されそうになったら、意思の力だけで立ち向かおうとしないこと。それこそが「あらがう」だ。ここはぜひ、自然の恵みによる調和のサポートをうまく取り入れたい。そのときどきの体調や気分に合わせて選べるハーブティーなどどうだろう。
たとえば、PMSの症状が気になるときは、女性ホルモンをサポートするといわれるレッドクローバーやセージのブレンドティーを。ほかにも「母親のハーブ」とも呼ばれるフェンネル、葉の形が聖母マリアのマントに似ていることから名付けられたというレディースマントルなど、女性の心身に寄り添ってくれるハーブは数多い。
ハーブティーは薬ではないけれど、その香りや味わいに包まれるうちに、自然と「あらがう」気持ちが剥がれ落ちていくはず。お湯を沸かし、茶葉をカップに入れてゆっくりと蒸らす。たちのぼる湯気のまにまに気持ちを漂わせると、張り詰めていた感情——「3つの袋」でいうところの堪忍袋がふわっと柔らかくなるかもしれない。