いわゆるベッドでもなく、床に布団を敷くのでもなく、コット(キャンプなどで使う組み立て式の簡易ベッド)で毎晩眠るようになったのは、数年前の春だった。天然木のフレームと帆布のシートで成り立つコットは、シンプルで無駄がない佇まいと素材の妙なのだろう、アウトドア用につくられたものながら、室内にもよく馴染む。万人ウケする就寝スタイルではないと思うけれど、ピンと張った帆布にからだをあずけ、頑丈なフレームに支えられてポヨンと浮かんでいる感覚で眠るのを、わたしはなかなか気に入っている。
寝具にコットを選んだのは、ひとりで持ち運べる軽さと、「寝る」以外の場面でも使えそうなフレキシブルさに惹かれたからだ。それまでは子ども部屋に娘と布団をならべて寝ていたのだが、ある春、娘が進級を前に「そろそろひとりで寝たいな」と言いだし、突如、わたしは寝る場所難民になってしまった。結婚時に買った寝室のベッドは、もはや夫が独り占めして眠るのに慣れてしまい、ふたりで共用するのは窮屈とのこと。自室には布団を上げる収納スペースがないし、結婚・出産・育児のライフイベントのたびに就寝スタイルが変わってきたのもあって、おいそれとベッドという大型家具を自分用に新調するのも気乗りしない。これから先、ふたたび就寝スタイルが変わることがあっても使い出がありそうなものを探して行き着いたのが、コットだった。
実際、コットは「寝る」以外でも活躍している。日中はベンチソファー代わりになるうえに、プロジェクターで映画を観るときはちょうどいい位置に軽々と移動できる。リビングに持って行って来客用の荷物置きにすることもある。
暮らしにおいて、家具選びは永遠のテーマだ。生活スタイルが変わると、必要な家具や使い方にも少しずつ変化が生まれる。変化が訪れるたびに無尽蔵に家具を買い足すわけにもいかないから、自然と小さな工夫を積み重ねていくことになる。使い方や配置を柔軟に変えられるフレキシブルな家具は、工夫を積み重ねるプロセスを楽しくしてくれる強い味方だと思う。
もうすぐ、春。新生活を迎えるひとも多いことだろう。「これからどんな日々が待っているかしら」と想像しながら部屋を整えるのはワクワクする。とはいえ、数ヶ月後、いま思い描いている新生活をそのまま送っているとは限らない。新しい趣味に挑戦してモノが増えているかもしれないし、予想だにしていなかった部屋での過ごし方に目覚めているかもしれない。そういった変化にもフレキシブルに対応してくれる家具は、きっと、新生活の頼もしい相棒になるはず。
フレキシブルといえば、「まちのシューレ」のオリジナル商品に「木の箱」という名の収納ボックスがある。軽くて丈夫な杉材でできており、サイズは大・中・小の3種類。シンプルで温かみのあるデザインなので、中に好きなモノをしまって「見せる収納」として部屋を彩ってくれる。それに、サイズを組み合わせてのスタッキング(積み重ね)も可能で、好きな高さに重ねてフタをすれば、たちまちそこに小さなテーブルができあがる。横向きに立てて、棚のようにお気に入りの本や観葉植物を飾るのも素敵だ。
自由自在に積んで、重ねて、立てかけて。季節や生活スタイルが移りゆくたびに、配置や使い方をチューニングしていく。そんな前提の、「木の箱」とのお付き合い。暮らしは、工夫の積み重ねだもの。「木の箱」を積んだり重ねたりする行為は、気忙しい新生活で揺れがちな心に、「自分らしい暮らし」をかたちづくる手応えや心地よさを連れてきてくれるだろう。