家族写真が並ぶ、実家のリビングの一角。そのなかに両親、わたし、弟それぞれの結婚披露宴の写真もあって、主役として写る母、わたし、弟のパートナーはみんな、お色直しで同じドレスを着ている。母が式を挙げるときに仕立てたものだ。シンプルなデザインの、朱色のサテンドレス。3枚の写真に時間や場所をまたぐつながりを感じるのか、娘や姪っ子が「わたしも結婚式でこのドレスを着たいな」と言ってくれることがある。それを聞くとわたしは、なんとも言えず顔がほころぶ。「わたしも同じものを」とつながりたいと想ってくれるその気持ちが、うれしくて。
「わたしも同じものを」といえば、いまや冬の定番アウターになっているキルティングジャケットは、1970年代に、イギリスの乗馬愛好家たちの「馬とお揃いで着たい」から生まれたものだという。キルティング――2枚の布の間に綿や毛の芯をはさみ、それを表布の上からステッチでおさえる技法――は、古くから保温、防護、装飾などを目的として存在していた。でもそれがファッションアイテムとなったのは、1960年代末に生まれた馬用のキルティングブランケットがルーツらしい。
寒い冬、馬を首からお尻をすっぽり巻きスカートのように包むブランケットとして、それまでは軽くて丈夫だが保温性の低いジュートが定番だった。そこに、軽さや丈夫さに加えて暖かさも備わったキルティングのブランケットが“発明”されて、イギリス国内で一気に大流行。乗馬愛好家から「わたしの乗馬用ジャケットを、ホースブランケットとお揃いの生地で作ってほしい」とリクエストが相次ぎ、現在のキルティングジャケットの原型となる乗馬用ジャケットが誕生した。
愛馬とお揃いのコーディネートをする嬉しさも当然あったと思うけれど、人馬一体の信頼感や連帯感の表現でもあったんじゃないかしら。「おばあちゃんやお母さんが結婚式で着ていたドレスを、わたしも受け継いで着たい」と願ってくれる娘や姪っ子の気持ちにも通じるものがある。お揃いになったとき、服はただの布ではなくなる。お揃いのものを纏うことは、単なるコーディネートの一致ではなく、気持ちを重ね合わせにいく行為だから。
キルティングジャケットには、その歴史に、乗馬文化の遊び心と品格が宿っている。1994年に誕生したバブアーの大定番モデル「リデスデイル」も、もとは乗馬などのカントリーライフのために発売されたジャケットだ。それが機能面やデザイン面で都会の装いとしても広がって、いまに至る。
服という存在はときに、これから着るひとが、これまで着てきたひとの気持ちを受け継ぐ触媒になる。この冬、背筋をしゃんと伸ばして馬とともに颯爽と駆ける英国紳士・淑女の気風と美意識をインストールしたくなったら、「わたしも同じものを」とキルティングジャケットに袖を通してみてはいかがだろう。