『測量野帳』というミニノートを使い始めて10余年になる。さらっとした紙質で、ペンを走らせやすい。机の上に広げると、横置きしたB5用紙よりもコンパクトなサイズ感。この原稿を書いている今も、ノートパソコンの手前にすっぽりと収まっている。1冊70gと、見た目に違わず軽量でもある。きゅうり1本と同じほどの重さらしい。わたしは外出先で仕事をすることも多いのだけど、きゅうり1本なら荷物の量としてほとんど負担にならない。加えてハードカバーなので、バッグの中でくしゃっと折れ曲がる心配も少ない。同じ野菜でも、トマトはやさしく扱わないとすぐに潰れてしまうもの。そのあたりもきゅうりっぽいかもしれない。ちなみに、このノートの定番の表紙は緑色である。
測量野帳はもともと、測量士が屋外で立ったまま筆記できるようにと開発されたノートだ。発売は1959年。以来、その使いやすさと頑丈さによって、建設現場を飛び出して個人のライフシーンにまで愛用者が広がっている。
わたしのおもな使いみちは、打ち合わせでメモをとったり、デスクワークで頭の中を書き(描き)出したりするキャンバスとして。移動中に立ち寄ったカフェの小さなテーブルで、パソコン作業をする時間やスペースがないときも、測量野帳ならさっと広げて書きつけられる。なにしろ持ち歩きやすいので、子どもが小さい頃は、お出かけ時の落書きノートとしても大活躍していた。
暮らしの道具になった仕事現場発祥のモノって、見渡すとけっこう存在する。たとえば、デニム。アメリカでゴールドラッシュの時代に、過酷な労働環境にも耐えられる作業着として誕生し、重宝された。それが1950年代ごろから若者文化のアイコンとして広まり、今では定番のファッションアイテムだ。
まちに一日出かけて、デニムを履いた人を一人も見かけない日はない。「人生で一度もデニムに足を通したことがない」という人も、おそらくいないだろう。とはいえ、さまざまなライフスタイルに、シーンに、すうっと馴染むアイテムだからこそ、デニムとの付き合い方は人それぞれ。どんなデニムを履くかも、履く頻度も、何枚持っているかも、十人十色だ。
わたし自身も振り返ると、好んで履くデニムはいろいろと変遷してきた。学生時代は元気よくローライズデニム、会社員時代はスキニーデニムでオフィスカジュアルに、子育て期は外遊びで身軽に動けるようにボーイフレンドデニム……などなど。子育てがひと段落した今は、身体のラインを拾いすぎない、すこし緩めのストレートデニムが気分。長らくデニムといえばTシャツとスニーカーで済ませることが多かった反動か、最近はブラウスとパンプスを合わせたエレガントな装いで、友人とお茶やランチに繰り出したい。
仕事現場から暮らしへ。シンプルな実用性がつくりだす、「ちょうどいい」の度量の広さ。アメリカでゴールドラッシュの時代に作業着として生まれたデニムは、150年のときを経て、わたしの大人のランチ会に出かけるおしゃれ着に。そのときどきのライフスタイルに「ちょうどいい」かたちでフィットしてくれるデニム。これからもずっと、「ちょうどいい」関係をアップデートしながらお付き合いしていきたい。