夏は川。お友だちが集まればさらなり。我が家の近くには浅瀬の川が流れていて、夏になるとこどもたちの絶好のあそび場になる。娘も、お友だちと誘い合わせてよく行っていた。川幅は数メートル。小学生にもなると、付き添いの親たちは足だけ水につけて川辺に腰かけ、こどもに目をやりつつおしゃべりに花が咲く。
わたしはこの、夏の川でママ友とおしゃべりする時間が好きだった。生まれも育ちも仕事もバラバラな、「ママ友」という存在。こどもが縁でたまたまお近づきになった人たち。ありがたいことに、ウマが合った。話題は自然と子育てのことが中心になるけれど、ぽつりぽつりと自分自身のことも話しはじめて「わかる~!」と共鳴したり、「へぇ、そうなのね~」と知らない世界(少々大袈裟だけど)を覗き合ったり。
川あそびを見守っている最中に「おしゃべりを途切れさせてはいけない」というプレッシャーが生まれにくいのも、よかった。楽しげにパシャパシャと水しぶきをあげるこどもたちの姿をはじめ、水面のきらめきや水が川の段差を流れ落ちる音、川上から吹き抜ける風、水につけた足もとに感じる涼しさなど、全身がたくさんの刺激に包まれる。同じ空間に同じように溶け込んでいる連帯感が、リラックスをもたらしてくれた。リラックスして交わす会話には、ふだんよりも温かさや親しみが込もりやすい。ふと会話に空白が生まれたときは、目を、耳を、感覚を、川に向けたらいい。川という存在が、共通点の少ない私たち「ママ」を「友だち」にするのに一役買ってくれたと思う。
こどもたちは成長し、夏の川あそびからもいつの間にか卒業。外あそびに親が付き添う機会もとんと減った。ママ友内で誰ともなく「ひさびさにごはんでも行こうよ」と声をあげて集まり、お酒に酔いながらおしゃべりに興じるのももちろん楽しいけれど、シラフであんなふうに話し込むことはもうないのかしら……と「夏の川の日々」を思い返すと、すこしセンチメンタルになってしまう。
どうやらそう感じていたのは、わたしだけではなかったらしい。先日1年ぶりに集まったときに、一人のママ友がこんなことを言い出した。「よくキャンプに行くんだけど、焚き火を囲んでいると思い出すのよ。あの川あそびを。しゃべるもよし、しゃべらないもよし、いつまでも見守っていられたなって」
すると、別のママ友が身を乗り出して「わかる~! わたし、このあいだ友だち家族とのキャンプで初めてテントサウナを体験したの。大人4人くらいが入れる、テントサウナにしてはちょっと大きめの。汗をかいて森林浴しながらからだを冷まして……っていうデトックスも気持ちよかったんだけど、過ごし方がなんだか懐かしくて。記憶をたどったら『あ、あの川あそびだわ!』って。からだと一緒に気持ちもゆるんで自然発生的におしゃべりが弾むのも、無言の空間で気まずくならないのも、似ていたの」と言う。
キャンプにもサウナにも疎いわたしが「へぇ、そうなのね~」とうなずく隣で、その二人のママ友を中心に「あの川あそび的なこと、またしたいね」「来年の春にこどもたちが小学校卒業するじゃない? 卒業旅行にこどもも連れてみんなでキャンプ行こうよ。焚き火を囲んでテントサウナにも入って、ゆるゆるしゃべりながら、身も心もリラックス&デトックスしよう!」とみるみる話がすすんだ。うんうん、もちろん参加します!
「ただ、わたし、サウナの高温で喉がカラカラになるのが苦手だから、すぐリタイアしちゃうかも…」と不安を伝えると、テントサウナ経験者のママ友いわく「テントサウナは自分たちの好きな室温に調整しやすいし、ストーブで水を沸かして水蒸気を発生させる水蒸気浴(スチームサウナ)は湿度も高くなるから、たぶん大丈夫だと思うよ」とのこと。加えて、「ほうじ茶の水蒸気がオススメって聞いたことがあるから、それも試してみたいんだよね」。ほうじ茶? サウナって熱い・我慢・デトックスのスパルタなイメージだったから、「そんなに自由度が高いの?」とわたしのサウナ観が揺らぎはじめている。
しゃべるときも黙るときも、心地いい。そんな空間をふたたび共有できそうな卒業旅行キャンプが、今から待ち遠しい。