わたしは20年来のペーパードライバーである。運転のたのしさを味わうのは、自転車でじゅうぶんと思っていた。ハンドリングする気持ちよさ。天候、信号の色、道路状況、歩行者の様子……いろんなことに目配りをしながら、ひとつひとつ判断を重ねていく。行き先もルートも、どのタイミングで進み始めてどのくらいスピードを出してどこで停まるかも、ぜーんぶ「わたし」が司る。周囲に溶け込んで順調に走っていると、世界と調和したかのような浮遊感が芽生えることも。社会的役割を果たしながら自由を満喫する「かっこいい大人」になった気分だ。
山と海に挟まれた阪神間の暮らしも東西の移動はアップダウンが少なく、自転車を颯爽と走らせることができる。ときには、愛車の折りたたみ自転車を袋に入れて電車やバスに乗せ、あちらこちらのまちや野山や海沿いをサイクリングしたりもする。日常も非日常も、自転車でスイスイ。
そんなふうに車の運転とは縁遠く生きてきて、このまま一生ご縁がないかな、なくてもいいかなと腹をくくっていたのだが……ここにきて転機がやってきた。仕事で山あいを訪れることになったのだ。それも複数回。車なら神戸から90分だが、電車とバスを乗り継ぐとゆうに3時間近くかかる。「駅から自転車で向かってもいいですか?」と聞くと、「折りたたみ自転車で峠を越えるのはだいぶハードですよ」とのこと。
うーむ、それならば、一念発起しちゃおうか。不意に私の人生に降ってきた、車の運転とのご縁。身近に乗れる車がないのだけれど、いまは便利な時代、カーシェアというサービスがある。思い立ったが吉日でサービスに登録したら、どんどん乗り気になってきた。ここに行きたい、あそこもいいな……と仕事そっちのけで、ドライブプランの妄想がすすむ。この暑さが過ぎれば秋。秋が深まれば紅葉。今から運転の練習を重ねたら、その頃にはわたしのドライビングテクニックも板についているはず。紅葉ドライブ! いいね! この秋の野望が決まった。
ブィーン(今どきの車はこんなエンジン音ではない?)……野望の妄想が加速する。そこでのわたしは、急ブレーキをかけることもなく、滑らかな危なげない運転でまちから山へ車を走らせる「かっこいい大人」だ。
大人の紅葉ドライブ。それならば服装もかっこよく、おしゃれにキメたい。紅葉スポットに寒さ対策は欠かせないだろうけれど、車から降りてサッと羽織るのが、サイクリングでいつも着ているアウトドア仕様全開のビビッドなウインドブレーカーでは味気ない。シティライクな雰囲気がありつつ、かつアウトドアにも馴染むアウター……WOOLRICHのANORAKなんて最適じゃないかしら。濃紺の落ち着いた色合いに、さりげないゴールドのあしらい。上品なデザインに、アウトドアブランドならではの機能性。インナーを選ばないドルマンスリーブも、気温が揺れ動く秋のドライブにはありがたい。
運転する気持ちよさも、季節のおしゃれもたのしむ、秋のドライブ。仕事がきっかけで始める車の運転が、プライベートの“たのしい”も呼び込んでくれそうで嬉しい。