最近はじめて、家でスパイスカレーをつくった。カレーといえば、家庭料理の定番。仮に月に1回つくるとして、年間12回。15年を過ぎた結婚生活で、わたしは年12回×15年=180回ほどカレーをつくってきた計算になる。そのすべてが、市販のカレールウを使ったカレーだった。ここ10年ほどはお気に入りのカレールウがあって、パッケージ記載のレシピにホールトマトまるごと1缶とウスターソースを少々足すのが「わが家の味」。みんなそうやって、市販のルウ+αで「家カレー」のカルチャーを紡いでいると思っていた……が、どうやらそうでもないらしい。
先日、仕事関係の10人ほどで、ランチタイムにカレーを囲む機会があった。その場で誰が言い出したのか、ひとりずつ「わが家の定番カレーのつくりかた」を発表していくことに。すると、「クミンシードとカルダモンと鷹の爪をテンパリング(香りを油に移す作業らしい)して…」「うちはクミンとコリアンダーとターメリックを…」と、スパイスの名前がどんどん出てくる。一巡したら、市販のルウでカレーをつくっているのは、わたしを含めて2人だけ。へえ、スーパーに行けば棚一面にルウがよりどりみどりなので、自分でスパイスからカレーをつくるなんて考えたこともなかった。なんだか、おもしろそう。
さっそく食材屋さんに向かい、カレー向きのスパイスが20種類小分けされているセットを購入。ひとつひとつの風味をよく知らないので、先のカレー会でよく挙がっていたターメリック、クミン、コリアンダーを中心に、適当に選んだ数種類を混ぜてみる。こどもの味覚に合わせて、ペッパー系は一応控えめに。袋を開けるたび「わあ、この香り、知ってる~!」と楽しい。
そうして何種類目かに開封したスパイスが、クローブだった。わが家では毎年、夏を迎えると害虫よけにクローブのアロマオイルを重曹に垂らしたカップを台所や洗面所に置いている。抗菌・消臭・鎮痛作用をもち、「歯医者さんの匂い」が代名詞のクローブは、ひとが口にする食材(スパイス)でもあったのね。
スパイスにしろハーブにしろ(余談だけれど、日本ではスパイスとハーブを分類する定義はないらしい)、ひとは太古の昔から、衣食住まるごとで植物のチカラのお世話になってきたのだなぁとあらためて感じ入った。そういえば、日本初のハーブ&アロマの専門店・カリス成城のお店のスタッフの方は、ハーブのことを「人間がなんとか生き延びようとしてたどり着いたもの」と表現していた。
カリス成城にかかれば、「お茶もハーブ」だという。抗酸化物質やビタミンを豊富に含む緑茶は、健康と美容にプラスの影響を与える有用植物だからだ。カリス成城の店頭には、ハーブティーやアロマオイルとともに、無農薬栽培された大和茶の茶葉・茶実・茶花や米ぬか、はちみつを使用したスキンケアシリーズ『ヤマトビューティー』が並んでいる。
「お茶もハーブ」という視点は、わたしとハーブやスパイスの距離を近づけてくれた。ハーブもスパイスも、思っているほど敷居は高くない。きっと。お茶がそうであるように、本来的には、日常の暮らしに根づいているものなのだ。市販のカレールウを愛用するわたしが「スパイスカレーをつくってみよう」とぴょんと一線を越えた際には、じつは「お茶もハーブ」が大きく背中を押してくれた。
原料の香りや形を思い起こさせるスパイスからつくったカレーを口に運んでみると、なんだかいつもよりも、植物の恵みをいただいている感じをありありと覚えた。植物の恵み、そして、それを見つけて暮らしのなかで育んできた人類の知恵に、わたしたちは生かされているんだわ。