夏場はTシャツと短パンで寝るのだけれど、長袖の季節になるとパジャマの気分になる。お風呂上がりにパジャマを着て、布団に潜ってぬくぬくと眠りにつく。子どもの頃の毎夜のルーティンが、今も身体に染み込んでいるのかもしれない。好きなパジャマは、綿100%の前開きシャツ。かぶって着るタイプは、どうもパジャマ感が薄まって、パジャマ欲が充足しない。
シャツタイプのパジャマは、ドラム式洗濯機で乾燥までしてしまうと、もれなくシワシワになりがちだ。以前は面倒ながら、乾燥をかける前にパジャマだけ洗濯機から取り出して、パンパカパンと伸ばして干していたのだが、あるとき気づいた。乾燥機にかけてシワシワになったとして、スチームアイロンをかけたらいいのではないか? パジャマにアイロンをかけるだなんて、ズボラなわたしの人生ではコロンブスの卵ではあったのだけれど、一度やってみると大当たりだった。
ぴしっとハリのきいたパジャマに袖を通すのがこんなに気持ちいいなんて、知らなかった。アイロンをかけるという行為はもちろん自分自身でおこなっているのだが、そのパジャマをまとうと、ありていに言って、気分がアガる。どこか丁寧なもてなしを受けている心持ちになるのだ。快感情の自家発電。
ハリといえば、肌。60代半ばの母や90代を迎えた祖母は、これといって造形に恵まれた顔立ちや身体つきではない。決して身のこなしが洗練されているわけでもない。しかし、身内びいきを差し引いても、人生が満ち足りていそうな雰囲気を放っている。何がそう思わせるのだろうと、祖母宅の食卓で話し込む二人の顔を見つめていて、膝を打った。肌と声のハリではなかろうか。母も祖母もきちんと手入れをしているのだろう、肌がみずみずしくツヤを帯びている。ハキハキとしゃべる声からは、活気があふれている。それだけで、邪気を跳ねのけそうな、運が良さそうな印象を受ける。
ハリが印象やモチベーションを左右する。それは服装も同じだろう。例えば、ジャケット。日常的にスーツを着る生活はしていないが、それでも時折、「ジャケットくらい羽織って行こうかな」という場面がある。仕事の打ち合わせであったり、会食であったり。わたしなりのジャケット選びの三大ポイントは、からだに合うデザイン、着心地のよさ、生地のハリ。
ストレッチのきいたジャージー素材のジャケットが、一番出番が多い。電車での移動中に脱いで手にかけておいて、いざ羽織るとシワが……といったトラブルに遭いにくいから。肩こりしないので、そもそもすぐに脱ぎたくならない点もとてもいい。ピンと張った生地感が、きちんとしたい場面で私に発破をかけてくれる。背筋が伸びる。
ハリをまとうことで、運気を呼び込む力が強まる気が、する。