風邪をひいて鼻がつまると、存在の大きさに気がつくものがある。それは、匂い。しかもだいたいご飯を食べる時である。例えばハンバーグを一口食べる。「あれ。美味しくない」。「作り方、失敗したかな」と食べかけのハンバーグを思わず見返す。見た目は上出来とまではいかないけど、まあ私の腕前ならスタンダードな出来栄え。今度はキョロキョロ家族を見る。うん、美味しそうに食べている。
そこで私は初めて気づく。そっか、匂いだ。少し焼き目をつけた香ばしい匂いもナツメグのエキゾチックな香りも感じない。だからおいしいって思えなかったんだ。そこで私は思い知るのだ。匂いの存在の重要さに。
人生ってすべてがうまくいっている時よりも、どこかうまくいっていない。そんな時にとても大切なものに気がつくものなのだろう。ああ、匂いよ。あなたがいない人生は、なんて味気がないんだろう。もし、コーヒーに香りがなかったら。ペペロンチーノにニンニクの香りがなかったら。もちろん花や潮の香りもそう。香りを感じることは私の世界を豊かにしてくれている。
「はなをくんくん」という大好きな絵本がある。冬眠していた動物たちがなにかの匂いに気がついて鼻をくんくんしながらどんどん集まってくる。白黒で描かれたページを読み進めると、最後みんなが集まったその先に、一輪の黄色い花。そこだけ世界がカラーになる。本なのに花の香りが漂ってくるようなのだ。
鼻をくんくん。できればその先に、幸せな香りがありますように。好きな人や大切な家族に用意する食事にもそう願う。みんながくんくんする先はおいしい香りでありますように。それは一緒に暮らす犬に対しても同じ、いや犬は人間より嗅覚が数千倍優れていると言われるのだから、なおさらかもしれない。もし良い香りのするドッグフードがあったなら。かつお節の上品な出汁の香りがただようドッグフードなんてどうだろう。大切な愛犬と一緒に、思う存分鼻をくんくんできる。犬も家族もみんなが目を閉じて「ああ、いい香り」って集まっている姿はそれだけでも素敵。