
冬は、仕事を終えて「さあ、帰ろう」とビルの外に出た途端に、自然と歩くスピードが速くなる。急いでいるわけではないけれど、早々に陽が暮れゆく空と容赦なく冷えた空気は、わたしに立ち止まる理由を与えてくれない。はやく玄関を開けて灯りをつけ、暖房のスイッチを入れて、温かい飲みものをおなかに流し込みたい。はやくマフラーと手袋を取り、コートを脱いで、肩をすくめて縮こまったからだをほどきたい。通りがかりにある書店や雑貨屋に吸い込まれることもなく、コーヒーショップでひと息つくこともなく、まっすぐ家路につく。
足早に帰宅した日は、おのずと家事を終えたあとの時間が増える。ぽっかり生まれた、平日の夜の自由時間。山も谷も、特別な予定も、今日中にしないといけないこともない。「平らな日の夜」の名にふさわしい静かな時間だ。何かをしてもいいし、何もしなくてもいい。映画を観てもいいし、本を数ページ読んで寝てしまってもいい。その選択に成果や意味を求めなくていいところが、平らな日の夜のいちばんの贅沢だと思う。
今夜はそうだなぁ、テレビに繋いでいるストリーミングサービスで映画を観よう。先日観た映画でかがやいていた俳優が出ている作品を、スマートフォンにメモしていたんだった。部屋を暗くしてソファの上で毛布にくるまり、リモコンで作品名を打ち込む。上映時間は2時間近くあるらしい。映画館ならばトイレを済ませるなどして気合を入れて席に着くところだけれど、ここは家。眠くなったら無理せず停止ボタンを押せばいいし、途中でお茶を淹れに立ち上がっても、誰にも咎められることはない。
映画のおとものおやつも、そう。テーブルの上にポテトチップスの袋をバリッと開けて、ひとまず食べる分をお皿にカサカサ移してソファーに戻り、パリパリと音を立てて食べる――映画館では「不適切」とされることも堂々とできるのが、おうち映画タイムの特権だ。
おとなの暮らしは、知らず知らずのうちに「適切」で埋め尽くされている。効率よく、無駄なく、マナーを守って。だからこそ、ぽっかり生まれた平らな日の夜のおうち映画タイムにはアソビゴコロを連れ込みたい。そればかりでは息が詰まってしまう「適切」に、ひとさじの無邪気さと好奇心を。このひとさじが、わたしをフワ~ッとほどいてくれる。
映画の内容と同時に、「どんなスタイルで観るか」も楽しむ。ポテトチップスを入れるお皿は、irosajiのターコイズブルーのカップがお気に入りだ。こどもの頃の砂場あそびのおもちゃを思い出させる鮮やかな色合いに、アルミならではの食器然としていない軽さ。シェラカップ(登山やキャンプで使われる金属製カップ)風の取っ手もアソビゴコロを盛り立ててくれる。カップに入れたポテトチップスは手でつまんで食べてもいいけれど、わたしは同じカップとお揃いの色のミニトングを愛用中。食べ物を一枚ずつトングでつまみ上げて口に運ぶって、日常の食事シーンにはなかなかない「無邪気」でしょう? それでいて、手が汚れないから、ポテトチップスを食べたあとに躊躇せず毛布やリモコンを触れる合理性もある。こども(無邪気)とおとな(合理性)が溶け合うのが、最高にアソビゴコロって感じで、好き。
平らな日の夜に、ひとさじのアソビゴコロを。映画の「適切」な鑑賞姿勢なんて気にせず、寝転びながら、ポテトチップスをつまみ、途中で笑い、飽きたら止める。ストーリーに集中しきれなくてもいい。その時間ごと、まるごと楽しめばいい。フラットに自分の心にしたがうこの時間が、明日「適切」に生きるための栄養になる。
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