
玄関のドアを開けるとムワ~ッ、口を開けばアツ~ッな夏も過ぎゆき、すっかりカラリとした風が気持ちいい季節になった。秋の気配が漂いはじめて、わたしは、暑さのなかでできるだけ身軽でいたいと願っていたのから一転、おしゃれ心がむくむくと膨らんでくる。
夏の盛りに選ぶ服は、どうしても機能性を優先してしまう。汗を吸ってすぐ乾く素材、洗濯機にかけてもへたらないTシャツ、子どもの公園あそびや水あそびに気軽に付き合えるラフなパンツ。色や形に多少の妥協はあっても、「快適に動けること」が第一条件になる。おしゃれ心と実用性の天秤は、否応なく後者に傾いていた。
天秤の傾きが変わったのは、暮らしのリズムの変化によるところも大きい。夏休みのあいだは子どもと一緒に過ごす時間が増え、毎日がにぎやかで少し自由奔放。それが、新学期が始まって、日々はふたたび規則正しい時間割の上にかたちを取り戻した。道ゆく制服姿の中高生も、いまや長袖に衣替えを終えている。そういった切り替えに触れて、自分の服装にも「きちんと感」を取り入れたいなと気持ちが移ろいだ。きちんと、おしゃれに。そして、おしゃれに、きちんと。
「きちんと感」といえば、トラッドファッションじゃないかしら。トラッドファッションの源流は、イギリスのパブリックスクールやアメリカ東部のアイビーリーグ。そこでは制服やドレスコードが日常に根づいて、服装そのものが、規律を守ることの象徴だった。丁寧に仕立てられたシャツの襟を正し、タータンチェックのスカートを合わせると、単におしゃれをしているのではなく、自分もその「きちんと」の流れのなかに身を置いている感覚になり、自然と背筋が伸びる。
たとえば、スポーティーでありながら英国らしいキリッとしたムードが漂うフレッドペリーのポロシャツは、週末の公園で子どもと過ごすときにも、学校行事や保護者会といった少し改まった場にも、しなやかに対応してくれる。タータンチェックが美しいオニール オブ ダブリンの巻きスカートは、歩くたびに軽やかに揺れ、クラシックでありながら女性らしい自由さを添えてくれる。
フレッドペリーのポロシャツも、オニール オブ ダブリンの巻きスカートも、流行の移り変わりに左右されず、世代を超えて数多のひとに着られてきたアイテムだ。実家のリビングでアルバムをめくれば、旅行先での記念写真で、幼き日のわたしの隣で若き日の母がタータンチェックの巻きスカートを履いて微笑んでいる。「お母さん、このスカートまだ持ってる? わたしも履きたいな」と聞いたら「もう入らなくなっちゃったから、ずいぶん前にバザーに出したわよ」と言われたけれど、裾をキルトピンで留めた巻きスカートの魅力は、何十年たっても薄れていない。
端正なデザインのトラッドファッションは、いまこの瞬間も現役の「おしゃれ」だ。でも、それだけじゃない。一時的な演出ではなくて、長く受け継がれてきた時間が、クラシックな襟元や上質なウールの手触りの「きちんと感」を織りなしている。
ファッションは、気分を切り替えるスイッチになってくれる。トラッドな装いで、夏にゆるんだ分を「きちんと」に揺り戻そうっと。
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