日ごとに陽光が暖かさを増して春めいてゆくこの時期。ふくらんでゆく花のつぼみにつられるように、冬のあいだに縮こまっていた心とからだが、なんだかうきうきと弾んでくる。
久しぶりに、気の合う顔ぶれでワイワイ集まりたいな。そうだ、ミクシングパーティはどうだろう、とわたしは思い立つ。ミクシングパーティというのは、かつてベストセラーになった桐島洋子のエッセイ「聡明な女は料理がうまい」で知った言葉。「優雅なパーティの開き方」という章の中で紹介されていたそれは、要するに、いろんな人を混ぜ合わせて縁を広げる集まりのことだ。
学生時代の旧友とか、趣味の仲間、仕事のつながり、ご近所さんと、人は誰しも、いくつかの交友範囲を持っている。ふだんはそれぞれのグループ内で連絡を取り合ったり集まったりしていて、異なるグループ同士がつながることはなかなかないのだけれど、わたしから見て、「この人とこの人、絶対気が合うはず!」と思う組み合わせはやっぱりあるもの。そういう人同士を引き合わせて、友だちの輪を広げちゃおう、というのがこのパーティの狙いなのだ。
ただしパーティとはいっても、大人数で集まるのは苦手なわたし。お互いに顔を見てゆったりおしゃべりできる6人ぐらいが理想。そして、できればピクニック形式がいい。川べりや芝生のうえで、めいめい料理や飲みものを持ち寄って、くつろいで過ごす。「はじめまして」の人同士も、春のぽかぽか陽気の下ならよりリラックスして打ちとけ合えるし、持参の料理をめぐって、「え、これおいしい!」「どうやってつくるの?」なんて会話が広がるのも楽しい。何かちょっとしたゲームを一緒にやったっていいし、たまに会話が途切れる瞬間があっても、ニコニコと空を見上げて「あー、気持ちいいね」なんて言ってご機嫌でいればそれでよし。夜の居酒屋で集まるのと違って、沈黙が気まずくないのがいいのだ。
縁結び役である幹事のわたしは、さっそく召集するメンバーの顔を思い浮かべて、順番にスマホでメッセージを送る。「春の到来を祝って、集まらない?」と。落語ファン、映画マニア、料理上手、喫茶店愛好家。わたしの愛するひとたちをミクシング。まさに「縁は異なもの味なもの」。男女の仲に限らず、友情だって何がきっかけで始まるかわからないから面白いよね。
わたしはカレンダーの日曜日に赤丸をつけ、持ちものの算段をはじめる。大きめの敷物に、紙皿やカトラリーやお箸。そうだクーラーボックスもいるよね。まだ約束の日は少し先だというのに、あっちやこっちの収納を開けて、そわそわとピクニック用品を点検するわたし。忘れちゃいけないのが、ふだん家でも愛用している、軽くて割れないカラフルなタンブラー。美しいフォルムにキラキラとした透明感があって、安っぽくならないから大人のピクニックにうってつけ。何色か色違いで並べれば、それだけできれいだし、自分の飲みものの目印にもなって便利なのだ。
春は節目の時期でもあるし、昇進や配置換えなどで変化の時を迎えているひともいるだろうな。さて、どんな近況報告が飛び出すことやら。そしてわたしの愛するひとたちの間で、どんな縁が生まれ、どんな関係が広がっていくのか、想像するだけで楽しい。むふふと笑って、わたしはカレンダーの赤丸を、大きな花丸にした。