先日、実家の片付けと不用品処理に駆り出されて、思いがけないものに出会った。押入れの奥から出てきたのは、わたしが3歳の七五三参りに着た着物。古いアルバムの写真に映っていたのはこれだったんだ、と思った途端、まるでパンドラの箱が開くように、これを着せられた日の記憶がありありと蘇ってきた。
髪を結い上げられ、お姫さま気分のおすまし顔で鏡の前に立つわたし。普段着では味わったことのない、肌をなめらかにすべる生地の感触。「まあ、今日は珍しくお利口さんやねえ」という母の声。これまでそんなこと思い出すこともなかったのに、身体のどこかで覚えているものなんだな。3歳児の記憶、あなどるべからずだ。
しげしげと赤い着物を眺めているわたしを見て、「産着を仕立て直したのよ」と母が懐かしそうに言う。生後1ヶ月のお宮参りに、赤ちゃんに着せる産着。それを仕立て直すと、3歳児や5歳児の着物になるのだそうだ。わたし自身が親になった今、わが娘のお宮参りはレンタルの産着で済ませてしまったけれど、昔ながらのこういうやり方もいいなあ、と改めて思った。この世に生まれてきたことを祝って贈る、喜びの衣。それが成長を祝う節目の衣にもなる、って素敵なことだ。
産着をレンタルで済ませたわが家、この先、七五三もたぶんレンタル衣装になるだろう。でも、その代わりと言ってはなんだけれど、わが娘にはもっと出番の多い一張羅がある。それが、出産祝いに親友がくれたマールマールのチュチュ。繊細なチュール地に、キラキラとした箔プリントをほどこしたベルトやインナースカートが組み合わされ、これまたお姫さま気分満載。何より、ベビーの時期はベアトップワンピースに、大きくなったらウエストばきのスカートに、と生後すぐから6歳ごろまで使えるのが魅力なのだ。
誕生日祝いの記念撮影や、結婚パーティへのお呼ばれなど、おめかしして臨みたいシーンは数あれど、とっかえひっかえ新しいものを買っていては大変だし、第一もったいない。その点、「これがあれば安心!」と思えるこのアイテムは、わたしたち子育て世代の心強い味方じゃないだろうか。その根っこには、産着を仕立て直して使う、日本の心にも通じるものがある気がする。
生まれたての赤ちゃんが幼児になっていく成長の日々にそっと寄り添ってくれる一枚の衣。うれしい日を何度も一緒に過ごして、家族みんなの思い出が積み重なっていく衣。そのコンセプトがすっかり気に入ったわたし、女の子用だけでなく男の子用もあると知ってからは、友人が出産した時のお祝いはこれと決めてしまったぐらいだ。
振り返ってみれば、もうすぐ3歳になるわが娘も、何度このチュチュにお世話になっただろう。そろそろ自我が芽生えてきた娘、このチュチュをまとうと、急に仕草や口調まで小さなレディのようにおしとやかになるから面白い。まるで七五三の着物を着せられたあの日のわたしみたい。「これからも、いい思い出をいっぱい作っていこうね」。チュチュをクローゼットにしまいながら、わたしは心の中でつぶやいた。