Youth is not a time of life; it is a state of mind;(若さとは人生のある一時期のことじゃない、それは心の状態のことだ)。こんな書き出しから始まる詩 “Youth”は、20代の頃からの私のバイブルだ。書いたのは、19世紀アメリカの詩人サミュエル・ウルマン。詩人曰く、人を老いさせるのは時間じゃない。いきいきとしたイマジネーションや冒険心、理想を失い、不安や恐れ、自己否定に支配されるとき、人は顔以上に魂にシワを刻み、老いぼれるのだ、と。そして、16歳であろうと60歳であろうと、この世界の美しさや希望に胸をときめかせ続ける限り、あなたは若さの真っ只中にいるのだと、私たちに語りかける。
思うにこれ、Tシャツが似合うかどうかの話にも、まるっと当てはまらないだろうか。元気いっぱいで無邪気な子どもや、夢見る気持ちと反骨精神が同居するティーンエイジャー。そのぴちぴちした肌や澄んだ目、伸びやかな肢体は、シンプルなTシャツと文句なしに相性最高だ。
問題はわたしたち大人のほう。肉体が若さを失っていくのは仕方がないとしても、心までみずみずしさを失ってしまうと、それが目の輝きや表情、姿勢、歩き方にあらわれる。そうなるとたちまちTシャツ姿が冴えなくなってしまうのだ。詩人にならって言うなら「Tシャツ姿を素敵に見せるのは若さじゃない、それは心の状態だ」てなところだろうか。
さて、今年の夏本番にそなえて、わたしも心ときめくTシャツを見つけたくなった。シンプルなものだからこそ、素材やカッティング、仕立てがしっかりした上質なものを。そしてもうひとつ、そのTシャツの作り手の美意識やスタイルが感じられることも大切だと思う。そういうのって意外に、Tシャツをまとう「心の状態」に影響するのだ。
そんなわけで、1周回ってここに戻ってくるなと思うのが、子どもから大人まで、年齢性別問わず楽しめるアニエス・ベーのTシャツ。手書きの筆跡を生かしたおなじみブランドロゴや、1993年のサラエボ包囲に端を発するアニエスベーの平和活動支援のシンボル「サラエボハート」をあしらったものなど、もう何十年と変わらずつくられているものが多く、これぞロングライフデザイン、という思いがする。アーティスト支援や国際平和、環境問題といった社会的テーマにいち早く取り組んできたブランドだけあって、1本スジの通ったところが感じられるのもいい。
御年80歳を超えるデザイナーのアニエス・べー自身も、若い頃と変わらないシンプルなTシャツやジャケットに身を包んで、このうえなくチャーミング。まさにサミュエル・ウルマンの詩を地で行くようなお手本だと思う。「もう歳だから」と言い訳したりせず、自分の仕事だけじゃなくアートや社会問題にも情熱をもち、前を向いて今を生きる大先輩。その佇まいからにじみ出る茶目っ気や反骨精神、見習わなくちゃね。
子どもと色違いで新調したTシャツに袖を通しながら、この先、子どもが私の年齢になり、私がおばあちゃんになった時のことを想像してみる。お互い、いくつになっても「Always Tシャツ適齢期!」と言えるひとでいようね。わたしは背筋をぐっと伸ばして、鏡に映る自分たちに笑いかけた。