「2歳のイヤイヤ期」とか「魔の3歳児」とかいう言葉はよく聞いていたけれど、5歳児の反抗期だって相当なものだ、ってことは自分が母親になって初めて知った。そりゃ、乳幼児の頃に比べたら、着替えや食事といった身の回りのことがひと通り自分でできるようになって、親としてラクになったところはたくさんある。その反面、いろんな言葉や言い回しを覚えたわがムスメ、今では屁理屈をこねたり口ごたえするのも一丁前で、「そんなこと言うようになったんだ……」とあっけに取られることもしばしばだ。
時にはこちらまで大人げなくカッとしてしまうこともあるけれど、冷静になってみれば、子どもは誰しもこうやって、心身ともに母子一体だった時期を少しずつ卒業していくものなのだ。いずれやってくる子離れ・親離れの時を思うと、「こんなにも子どもとくっついて過ごせる時間は、そんなに長くないんだよなぁ」と、ちょっとしんみりしたりする。目先の忙しさにかまけていると、時間はまるで指のあいだをすり抜けていく砂のように、どこかへ消えてしまう。ならば今しかないこの時、きかん坊な表情も、甘えん坊な表情も、愛して抱きしめて楽しまなくちゃ。
そんなことを考えていた矢先、店先で親子ペアになった可愛いTシャツを見つけた。英国生まれのジムフレックスというブランドのもの。シンプルだけれど生地は上質で心地よく、胸元の刺繍や折り返しのある袖など、ちょっと小粋なディテールが光っている。ムスメとおそろいの服ってこれまで着たことなかったけれど、こういうの、なんだかうきうきとテンションが上がる感じでいいじゃない。ただしおそろいとは言っても、それぞれの「好き」に合わせて色違いに。おしゃれにうるさくなり始めたムスメの自我も、ちゃんと尊重しようというわけだ。
折しも季節は晩春から初夏へ。Tシャツの出番が増える時期だ。おそろいのいでたちで出かける日は、ムスメもなんだかうれしそう。私の手を握ってブンブンと振りながら、ピカピカの笑顔で「ママあのね、そいでね、そしたらね……」と次から次へとおしゃべりを続ける。私はその笑顔を記憶に焼きつけたくて、何度も心の中でシャッターを切る。
そして実は、おそろいの服がもたらしてくれた「いいこと」が、もうひとつある。どうやらジムフレックスのTシャツはムスメにとっても特別な一枚となったようで、洗濯して乾いたやつを、ムスメが自分でたたみたいと言い出したのだ。最初はぎこちない手つきだったけれど、「しわを伸ばして、お袖をこう折って……」と、まるで折り紙を教えるみたいにお手本を見せてあげているうちに、上手にたためるようになった。
こうなればしめたもので、褒めておだてて、Tシャツ以外の下着やパジャマなんかも自分でたたむように仕向けてしまおうというのが、今の私の作戦。そんなわけで、洗濯ものの山を前に、ふたりしてぺたんと座り、なんだかんだとおしゃべりをしながら手を動かす。ふとムスメが、自分のと私のと、2枚のTシャツを見比べながら、「みーちゃんもいつかママみたいに大きくなれるよね?」と尋ねてきた。思わず「もちろーん!」と叫んで、ムスメの肩をギュッと抱いた私。そのあどけなさにほだされて、今はもう「反抗期だってなんだって、どんと来い!」てな心境なのだ。