わたしが素敵だな、と思う人は、ちょっとしたところのおしゃれまでチャーミングだ。艶のあるきれいな色のソックスとか、アンティークの繊細なブローチとか、素敵な刺繍の入ったハンカチとか。それって、面積の大きい洋服と違って、わかりやすく人目につくものじゃない。でも、だからこそ、そういうアクセサリーをまず自分自身が楽しんでいる姿勢に憧れるのだ。心の余裕があるというか、日々、自分をごきげんにするタネを蒔いている感じ、というか。
でも自分のことを振り返ってみると、子どもが生まれてからのこの1年、そんなおしゃれを楽しむ気持ちの余裕などどこかに行ってしまった。毎朝、子どもを着替えさせて食べさせるだけでも大騒ぎで、自分は手近にある服を、おかしくない程度に組み合わせて着るのが精一杯。大好きだった、細いチェーンが揺れるピアスやネックレスは、子どもが引っ張って危ないからつけられなくなってしまったし、ネイルもすっかりご無沙汰だ。そしてバッグはいつも子どもの着替えやおもちゃでいっぱい。素敵な刺繍の入ったハンカチなんて、今はまだお預けだ。
もちろん、小さな怪獣に振り回される毎日は、それはそれでしあわせなのだ。「ママ!」と満面の笑みで、わたしの胸に飛び込んでくる瞬間なんて、日々の苦労も吹き飛んでしまう可愛さだ。自分のことは後回しになってしまうのも、そりゃ仕方がない。そう自分に言い聞かせている。
そんなある日、遠く離れた街に住む友だちから、小さな小包が届いた。開けてみると、手紙と可愛くラッピングされた何かが入っている。手紙には、うちの子が1歳を迎えたことへのお祝いの言葉と、ちょっとした近況報告、そして「また会いたいね」という言葉があった。ラッピングを開けてみると、出てきたのは上質なレザーを使ったシューズクリップとマグホルダー。これは赤ちゃんの靴や飲み物の入ったマグを、ベビーカーのハンドルなどにおしゃれにぶら下げられるもの。それから可愛いリボン型のネームタグもあった。シューズクリップとマグホルダーには娘の名前が、そしてネームタグにはわたしの名前が刻印してある。
あとで彼女にお礼のスマホメッセージを送ると、こんな返信が届いた。「あれ、わたしも気に入ってるやつだから、ぜひ使ってみて!ほら、ベビー用品にばかり囲まれていると、どこか自分自身がそこにいないような感じ、しない?だから子どもと出かける時、たとえ小さなものでも、自分の本当に好きなものが手元にあるって大事だと思うのよ」。
そのメッセージを見た時、わたしはハタと気づいた。そうだ、華奢なピアスやネックレスはできなくても、ネイルのお手入れまで手が回らなくても、自分自身をハッピーにしてくれる小さなおしゃれはできるんだ。手にしっくりなじむレザーの感触を味わいながら、もう明日の外出が楽しみになっている自分がいる。