趣味で着物を着るようになって10年ほどになる。着物で面白いなあと思うのは、衿元の表情が、着方次第でいかようにでもコントロールできるところだ。後ろ衿の抜き方や半衿の見せ方を控えめにすれば、清楚な雰囲気になるし、半衿をたっぷり見せれば、華やかでおっとりした印象に。後ろ衿をぐっと抜けばちょっと粋筋な姐御風になったりする。
着る人の持つ雰囲気や年齢、体型などによって、似合う衿元のかたちが違っているということもあるし、同じ女性でも、昼間は生まじめな感じに着て、夜のお出かけはちょっと色っぽく、なんて使い分けることもできる。顔に近いせいもあるからだろうか。とにかくこの衿元の表情というのが、「イメージの調整弁」としてあなどれないのだ。
衿元の表情が重要なのは、何も着物だけじゃなく、洋服だって同じこと。ただ、平面的な布を自分で塩梅しながら体に巻き付けてまとう着物と違って、洋服となると、これはもう服そのものの仕立てに頼るしかない。たとえばシャツなら、第2ボタンまで開けたときに胸元の肌がどこまで露出するのか。Tシャツやカットソーなら、鎖骨の見え方はどうか。自分好みの仕立てのものを見つけるのは簡単ではなくて、「たかが衿元、されど衿元」なのだ。
とくに私を長年悩ませていたのが、タンクトップの衿ぐり問題。衿ぐりが詰まりすぎていては垢抜けないし、かといって開きすぎていてはだらしなく見えてしまう。鎖骨をほどよく見せて女性らしさを引き立てつつ、カーディガンやシャツを重ね着した時に、ちょうどよい分量が見えるものであってほしい。そんな期待を胸に、これまで何枚のタンクトップを試してきただろう。けれど「これはリピート買い決定!」と言えるものは見つけられていなかった。
けれど最近、そんな私を救ってくれるアイテムに出会った。なめらかで美しい光沢のあるエジプト産のプレミアム綿「ギザコットン」を使用した、ソフト天竺のタンクトップ。ひと目見た時に「ああ、これこれ!」とピンと来た。幅広のパイピングで仕上げられた衿ぐりのカーブは、まさに詰まりすぎず開きすぎずの絶妙な塩梅。骨格やバストがボリューミーな欧米女性とは違う、多くの日本人女性によく合うかたちなのも、メイドインジャパンならでは。さらに、何度も着て洗濯を重ねても、衿ぐりがだらしなく伸びたりしないのがいい。
白いタンクトップの胸元に、細いゴールドのチェーンネックレスをきらり。その上から何年も着込んでいい感じに色褪せたデニムシャツをゆるっと羽織って、生成りの麻のパンツを合わせる。なんてことはない定番のスタイルだけど、ベースとなるインナーが決まっていると、それだけで自信が持てて気分よく過ごせる。いろいろ回り道もしたけれど、洋服でも自分に合った衿元の塩梅をつかんだ気がして、今のところご機嫌なのであります。