今でも、家族が集まると笑いのネタになる一枚の写真がある。それは1歳だった私が、初めてホンモノの海に入った時のもの。父の腕に抱かれた私が、波におびえて泣きじゃくっている。その私の手にギュッとつかまれているのは、幼い日いつも一緒にいた布人形のミルちゃんだ。おそらく「ミルちゃんは置いていこうね」といくら大人が言って聞かせても、私が手を離さなかったのだろう。おお、哀れにも道連れにさせられたミルちゃん。その場面の続きのようにアルバムに並んだ写真には、砂浜に上がり泣きはらした顔でバスタオルにくるまれた私が写っている。もちろん潮水でぐっしょり濡れたミルちゃんも一緒だ。
そんな具合で、とにかく一人でお留守番をする時も、電車に乗って遠出をする時も、いつだってミルちゃんは私のそばにいた。ミルちゃんは私にとって初めてのベストフレンドだったのだ。嬉しいことがあれば私と一緒に喜び、悲しいことがあれば慰めてくれるような気がして、その素朴なコットンの抱き心地を味わうと、どこか心丈夫でいられた。私が甘えたい時はお姉さんにもお母さんにもなってくれたし、私がちょっと大人ぶってお世話をしたい時は、小さな赤ちゃんにもなってくれた。母が言うには、ある時「ピーマンもちゃんと食べないと大きくなれないんだからね!」と私がミルちゃん相手にお説教をしていたこともあったとか。ああやって自分にも言い聞かせているんだわ、と母はおかしくて仕方がなかったそうだ。
今にして思えば、布人形ミルちゃんが、誰もが知るアニメや映画のキャラクターでなかったのもよかった。家族の中で自然と名前を与えられ、気づけばいつもそこにいて、幼い子どもの心のよりどころになってくれる存在。まるで自分の分身のように、空想の世界を一緒に旅してくれる存在。それってかけがえのないものだったんだな、と母になった今、改めて思う。
そんなわけで、長く付き合える布人形は、わが娘のファーストトイとして必ず欲しいもののひとつだった。上質な天然素材を使って丁寧に仕立てられた、ほどよいサイズ感とふっくらした抱き心地。そして今にもおしゃべりを始めそうな表情のかわいらしさ。そんなあれこれを吟味してたどり着いたのが、Albetta(アルベッタ)の着せ替えドール。このブランドが展開する子ども服とお揃いのミニチュアドレスが、ドール用にも用意されているのが楽しい。そして、ヨーロッパの厳しい基準を満たす安全性と、コットン栽培者やドール生産者の人権に配慮したものづくりも、次世代に贈るのにふさわしい。
まだ言葉を話さない娘だけれど、最近はこの布人形を目で探しては、自分のそばに置いておこうとするようになった。いつか娘と人形がお揃いのドレスでお出かけする日が、今から楽しみで仕方ない。その日のことは、きっといつか私たち家族の語り草になるだろう。そう、幼い私とミルちゃんのエピソードが、今も家族の心を照らしているように。