いつかはアルパカ100%のニットが欲しいな。そう思ったきっかけは、一冊の写真集だった。それは世界の古い民芸品を集めて紹介するもので、ページを繰っていた私の手を止めさせたのは、南米ボリビアに伝わるアルパカ製のジャガイモ袋と荷造り用ロープ。高山に住む人々が、ロバの背に積荷を乗せて運ぶのに使ったものだった。「えっ、これをアルパカの毛で?」と私は驚いた。
白と茶の毛をボーダー柄に織り上げた袋やロープは、実用一点張りの麻袋や麻ロープなんかよりもずっと洒落ている。それでいてそのタフさは筋金入りで、何十年と破れることなく使えたのだという。アルパカの毛は、その柔らかさからは想像できないほど、切れにくい強度を持っていることを、私はその時はじめて知ったのだ。
アルパカといえば、カシミアに並ぶ贅沢でデリケートな素材という認識しかなかった私には、とても意外だったと同時に、その生活必需品としての佇まいに、なんだか胸を打たれる思いがした。古代アンデス文明の時代から、アルパカと共存してきた歴史はダテじゃない。汗や土の匂いのするほんものの暮らしで培われた、揺るぎない強さ、美しさ。こういうものと一緒に暮らしてみたい、と思わずにいられなかった。
地球儀をくるくる回してみれば、ボリビアは日本のほぼ裏側あたり。温暖湿潤な日本とは何もかも正反対な世界が広がっているんだろうな。一冊の写真集とアルパカ製の民具は、まだ見ぬ南米への想像を膨らませてくれた。
それ以来、冬が来るたびにアルパカのことが頭の片隅にあった私。最近ようやく会心の出会いを果たした。ボリビアの首都ラパスにて、女性たちが一枚一枚手編みで仕立てるアルパカセーター。その編み地はとても丁寧で緻密だけれど、機械編みとは違う人間味があって、愛おしい気持ちになる。さっそく私と夫、そして幼い息子にもそれぞれ一枚ずつ、「チームわが家」へのクリスマスプレゼントということにした。エイヤッ!という思いではあったけれど、これは長い目で見ればリターンの多い投資なのだ。
調べてみると、アルパカのニットは軽くてあたたかいだけでなく、型崩れせず毛玉も出にくい。さらに油分を多く含んだ繊維はなめらかで肌へのチクチク感がなく、汚れを寄せつけにくいそうだ。アルパカは一生もの、と言われるゆえんだ。
ほどほどのものを着ては捨てる暮らしから、厳選されたお気に入りを長く愛する暮らしへ。それは息子にもいい教えになるだろう。息子がもう少し大きくなったら、地球儀を一緒に眺めてボリビアの場所を教えよう。古代アンデス文明の話をしよう。彼が私の背丈を越す頃には、夫とセーターを共有して着こなせるようになるだろう。そしたら、いつか行ってみたい南米の旅の話をしよう。
そういえば、ボリビアを旅したことのある知人がこんなことを言っていた。ボリビアでは何かいいことをすると、相手から決まり文句のように「神様が3倍お返ししてくれるよ」という言葉が返ってくるという。このセーターもまた、3倍どころじゃ足りないぐらいの楽しみを、私たち家族に返してくれそうだ。