愛が溢れるほどに満ちた暮らしのフロア 本館5階 Affection for Life

2023.10.17

枯れないひと

20代の頃、よくお世話になった年上の女性がいた。何度か手料理をご馳走になったことがあるのだけれど、取りたてて豪華というわけではないのに、どれも心満たされるおいしさで、私はよくレシピを教えてとねだったものだ。タイ風春雨サラダとか、鯖の酢じめとか、今も私のレパートリーになっているものがいくつかある。
どうやったらこんなにおいしくなるの?と尋ねる私に、「うーん、大したことは何もないのよ。ただ調味料はいいものを使うようにしているかな」と彼女は言っていた。オイルとか醤油とか、みりんとか。いいものはそこそこお値段がするけれど、ほかの出費に比べたら、調味料で贅沢したって、たかが知れてるでしょ?それにお金をかけただけのリターンは絶対にあるから、試してみて。その彼女の教えは、20年以上経った今も私の中に残っていて、折にふれて思い出す。
そういう彼女の姿勢は、装いにも表れていた。シンプルなニットやシャツにコットンパンツ、というベーシックなスタイルながら「年齢を重ねるとね、表面的な見てくれ以上に、素材の“質感”を重視しないとダメなの」というのが彼女の持論だった。しっとりとしたツヤを放つカシミアのニットやシルクリネンのストール。エジプト綿のなめらかなシャツに、きちんとプレスがかかったの。きれいに磨かれた上質な靴。飾り立てようとか、若造りしようというのではない。そんな装いは、趣味のヨガやテニスで鍛えられた彼女のヘルシーな肉体と、見事に一つになっていた気がする。

時が流れて、私も当時の彼女と変わらない年齢になったけれど、残念ながら彼女のようなおしゃれ上級者にはなれていないのが現実。クローゼットには何枚もの服があるのに、なぜか「着るものがない!」という気持ちになるのは、周囲の40代50代も同じみたいだ。それまで似合っていたものが、似合わなくなる。それまで何も思わずまとっていた服の質感が、何やら心もとなく感じて、手が伸びなくなる。いわゆる「おしゃれ迷子」だ。

でもある日、そんな私を救ってくれるアイテムに出会った。スーピマコットンを高密度に織り上げた、コットンギャバジンのタックパンツ。トレンチコートを思わせる目の詰まった生地は、上品なハリとツヤがあって、普通のチノクロスのパンツとはひと味もふた味も違う。リラックスした着心地ながら、下半身のコンプレックスをカムフラージュしてくれるシルエットも心憎くて、着るだけでなんだか元気になれるのだ。

これを手に取った瞬間、彼女の姿がありありと目に浮かんだ。彼女ならこれを何通りにも素敵に着こなすだろうな。ちょっとした小旅行に、コットンニットと白いスニーカーを合わせて颯爽と。あるいは、しなやかな羊革のジャケットにパールのネックレスとパンプスを合わせて夜のレストランへ。いぶし銀のような輝きを放つ、枯れないひと。「私もまだまだこれからだな」。私はそう呟いて、鏡の中の自分に笑いかけた。

STAMP AND DIARY (スタンプアンドダイアリー)
60/2ギャバ ウエストタックパンツ
24,200円(税込)
【STAMP AND DIARY(スタンプアンドダイアリー)】
2013年にスタートした、生活の道具としての服を提案するブランド。着る人と共に歳を重ねていく日常着を目指し、上質な素材や女性を美しく見せるフォルム、ディテールにこだわったものづくりを続けている。
【60/2ギャバ ウエストタックパンツ】
2014年の発売以来愛され続けているロングセラーモデル。スーピマ綿の中でもとくに上質な60/2を高密度に織り上げたコットンギャバジンに、さらに特別な加工をほどこした上質なハリとツヤが魅力。カジュアルすぎない絶妙シルエットで、体型を気にせずシーズンレスに使える、大人女性の救世主。
■売場
本館5階 プルアプープ
フロアマップ
記事一覧
前の記事
次の記事

Read More

Kobe Style World