少し前までは「男性脳」「女性脳」なんてことが、まことしやかに語られたりしていた。女は地図が読めないとか、男はマルチタスクが苦手だとか、性別によって思考のクセが違うという説だ。「古来、男は狩りに出て、女性は採集と子育てを担っていた。だから男には遺伝子的に狩猟本能があり、女は巣づくりに向いている」と、私たちは長いあいだ信じてきた。けれど最新の科学的研究では、「脳の構造そのものに性差はない」という見方が主流らしい。つまるところ、人の個性を分けるのは「性差」以上に「個人差」が大きいのだとか。
そんな見解を裏づけるように、2020年には米国の考古学研究チームから「9000年前のアメリカ大陸では、大型動物ハンターの30~50%が女性だった可能性がある」と発表された。意外や意外!だとすれば、住まいを整え火を起こして獲物の到着を待つ「おうち好き男子」だっていたかもしれないな、なんて想像も膨らむ。
「子育ては女がするもの」という考えは、これまでの社会的慣習や教育によって、私たちの中に根づいてきた。「母性本能」という言葉はよく耳にするのに「父性本能」という言葉は聞かない、という不思議も、そんな現象を象徴するもののひとつだと思う。
でも、出産を経験してみて思うのだけれど、女だって、⼦どもが⽣まれたからといって⼀⾜⾶びに中⾝まで親になれるわけじゃない。男も女もおんなじだ。「⺟性」も「⽗性」も、私たちの中にある⼩さなタネに毎⽇⽔をあげるようにして、気⻑に育ててゆくしかないのだと思う。誰かの⼦どもでしかなかった⾃分たちが、誰かの親になる。たとえ今は未熟でも、⽇々泣いたり笑ったりしながら⼦どもと向き合い歳⽉を重ねた先に、がっしりした⼤⽊のような⽗⺟になれる⽇がきっと来る。困った時は周囲に頼ったっていい。おじいちゃんやおばあちゃん、ご近所さんや友だち。みんなに⾒守られて、私たちはゆっくり親になってゆく。
「なにごとも習慣です。エネルギーを出す習慣をつけていると、エネルギーは出続けるし、愛だってそうです。」
これは1930年代から70年代にかけて活躍したアメリカの伝説的なファッション雑誌編集長、ダイアナ・ヴリーランドの言葉だけれど、金言だなあと思う。何かに夢中になる情熱も、人に与える愛情も、出し惜しみしちゃいけない。ましてや「男だから」「女だから」なんて関係ない。これからを生きるカップルには、もっと自然に、子どもと一緒に過ごす習慣を楽しんでほしい。
ただし、よい習慣をつくるには、意思の力だけでなく、よい道具の力も借りたいところ。そこで、ベビーを授かったカップルの共有アイテムとしておすすめしたいのは、シンプルで丈夫なバッグ。まるでアウトドアグッズのような機能美を備えたスタイルは、「マザーバッグ」ではなく「ペアレンツバッグ」と呼ぶのにふさわしい。これなら男性も率先して使いたくなっちゃうだろうな、というところがポイントだ。子どもがヨチヨチ歩きを始め、親の父性も母性もそれなりになってきた頃には、コットンの風合いも味わいを増して、なかなかの風貌になっているだろう。「この子がもう少し大きくなったら、このバッグ持ってキャンプに行きたいね」とか「そうだ、いつか渓流釣りを教える時にも使えるな」なんて具合に、遊び心も刺激されて、むくむくと育っていきそうだ。「イクメン」という言葉とか考え方以上に、手に取りたくなる道具の力は大きいと思う。
こんなバッグを抱えて育児に奮闘する大人たちの姿は、きっと子どもたちの心にもなんらかの記憶を残すだろう。そしてまたその子どもたちが親となって、次の家族像をつくってゆく。「男だから」「女だから」ではない、自分たちらしい価値観で。そんな未来を、私も見届けたいと思わずにはいられない。