「宝の持ち腐れ」という言葉がある。せっかく良い才能があるのに、存分に発揮できていないとか。せっかく良いものを所有していながら、ちゃんと使わないで仕舞い込んじゃっているというような意味で使われる。せっかくの良いものなのに、日の目を当てないでみすみす腐らしちゃうような気分の言葉だ。
たとえば、食器。せっかく名品と言われるものや名のあるものを手に入れたのに、使うのが勿体無い。使って傷をつけたり壊したりするのが嫌だ。だから、宝物のように、食器棚に飾っているのみ。眺めているだけで使わないひとは意外に多い。
失礼ながら、ちょっとミミッチくない?使わずに大事にしまっておくなんて、買った意味がない。使わないなんて、その方が勿体無い(言い過ぎかな)。でも、そのとおりでしょ(耳の痛いひともいるかも)。食器棚に飾っているだけなら、食器としてなんの役にも立っていないじゃん。ま、インテリア的な役には立っていたり、持ち物自慢にはなるかもしれないけどね(ちょっと嫌みかな?)。使ってこその食器。本来の目的で役立ってこその、食器じゃないですか。
想像ですが、使わずに飾っている理由は、どうしても使うのが惜しくて踏ん切りがつかない、というのが多いんじゃないかな。それなら、使う口実をつくれば良いだけじゃないですか!「踏ん切り」をつけちゃえる口実をつくるのだ。えーい!踏ん切っちゃおう!ホップ!ステップ!ジャンプ!と、弾みをつけてくれる口実を。
これからのシーズンなら、たくさん口実がつくれそうだ。まず浮かぶのは伝統的な行事。「お月見」や「重陽の節句」だ。「敬老の日」、「秋分の日」、「お彼岸」も伝統的な風習。子どもたちの「運動会」「文化祭」ってのも、口実になりそう。「ハロウイン」や「七五三」、「ボージョレ・ヌーボーの解禁日」なんかも食器を使うには、良い口実になりそうだ。お月見のお団子をウサギに見立てた姿に自作して、お気に入りの食器に飾ってみては、どうかな。お団子の代わりに手毬ずしを握って乗せてもおしゃれですよね。ススキが手に入らねば、お花屋さんで購入しましょう。重陽の節句なら、栗ご飯を大皿に盛っても映えるかも仕入れない。庭の紅葉の枝を飾ると、もっと映えるかも。栗ご飯には食用菊のおひたしを添えたら、いかが?重陽の節句は菊の節句ですからね。菊の花びらを浮かべた菊酒をお気に入りのグラスに注いでみるのも、洒落た趣向です。ほら、ほら、大事にしまい込んでいた食器も、使う口実さえ見つかったら、使い方のアイデアはどんどん膨らんでいきます。家族で楽しむのも良し、仲の良い友だちを招待するのも良し。いままで出番のなかった(出番をこさえなかった)食器も大喜びしますよ。
かく言うワタクシ。ジャン・ルイ・コケという、有名シェフも憧れるほどのフランスの逸品を持っているが、御多分に洩れず食器棚の肥やし(高価な!)になっている。気に入りすぎて、使うのが怖くて長年しまい込んできた。ちゃんと、使う口実をつくらないとね。まずは、お月見は、どうだろう。満月だけに、長年の宿題が丸く収まりそうだ。「まあるい口実」と言うわけですね。