これだけを聞いて「夏はいかにも涼しきように 冬はいかにも暖かなるように」という一節がスラスラと口をついて出たあなたは、ただものじゃないな?ひょっとして、茶の道を極めた達人かもしれませんね。この一説は、千利休が説いた茶の湯の極意。ちなみに全文は「夏はいかにも涼しきように 冬はいかにも暖かなるように 炭は湯の沸くように 茶は服のよきように これにて秘事はすみ候」だ。
古い文体で書かれていると、なんだか大それた秘伝のように聞こえるけど、難しいことは何も言っていない。平易な話し言葉に置き換えると、こういうことだ。「夏はいかにも涼しく感じるようにしなさい。冬はいかにも暖かく感じるようにしなさい。炭はちゃんとお湯が沸くように準備をしておきなさい。お茶はちょうど良い加減で飲めるようにすること。これだけを心がけておけば客をちゃんともてなすことができる」。ほぼ、こういう意味だ。
「心頭滅却すれば」という言葉がある。「無念無想の境地に至れば、火でさえも涼しく感じる」「いかなる苦痛もこころの持ち方次第で、凌ぐことができる」ということをいう。でもねえ、近ごろの亜熱帯のような日本の夏。「心頭滅却」だけで乗り切れないですね。そんなことをしていたら、カラダの調子を崩しかねない。
そこで、「夏にはいかにも涼しきように」感じる暮らしの実践をおススメしたい。利休が到達した侘び寂びの世界に学び、華美や絢爛を廃した暮らしを追求してみると、いまどきの灼熱ニッポンでも快適に暮らせる方法が見つかろうというものだ。慎ましく質素にすることを旨とする“侘び寂び”に通じる心得として、まずは家の中を片付けよう。目に映る家財を減らし、部屋の中の色数を減らしてみるだけで“いかにも涼しきように”感じるものです。
ところで、「夏座敷」という言葉を知っていますか。襖や障子戸を外して簾(すだれ)を吊るす。畳には藤や網代を敷く。こうすることで、見た目も涼やかになるだけでなく、家の中の風通しが良くなる。敷物から足に伝わるひんやりとした感覚に、暑さもスーッと引きます。これぞ、家ごと夏仕様という考え方だ。いまの日本の家屋では夏座敷にするような部屋も無くなってきているが、1年中同じ器や家具ではなく、昔の暮らしの知恵をヒントに、夏には夏の設(しつらえ)を取り入れてみてはどうでしょう。
クッションカバーの生地や、カーテンの生地や模様、照明器具なんかを替えるのものありだけど。「食器の衣替え」をしてみませんか?食器なのに衣替えって、ヘンでしょうか。でも、ニュアンスはわかりますよね。「夏はいかにも涼しきように」の代表格はガラスの器でしょう。せめて食器を夏らしく替えてみましょうよ。
涼しげな食器で、夏のテーブルコーディネイトを楽しみましょう。衰えがちの食欲だって、きっとシャキッ!と、するのじゃないでしょうか。ウソだと思うなら、まずは実践してみましょう。
「夏はいかにも涼しき」食器に替えて暮らしてみる。もちろん、冬になったら「冬には冬の」です。それこそ、四季のある、この国に住む楽しみではないですか。